イスラムの豪奢に囲まれて

2010年02月08日 02:13



【チャイルドハロルドの巡礼】第2編より、60連-66連
    バイロン作  Shallot B.訳

60
ちょうどラマダンの断食の季節で、
ひねもす苦行は保たれた。
しかし、なかなか沈まない夕日の時刻が過ぎると、
浮かれ騒ぎと大饗宴が再び息を吹き返したのだ。
いまや、すべてが忙しなく、頭数だけの召使が
屋内にあふれんばかりの食事を整え、並べた。
広い回廊は、無駄に作られているようだけれど、
部屋からはひっきりなしに食器の触れる音がした。
と、小姓と奴隷がたえず出入りを繰り返していた。

61
ここには、女の声がまったくない。隔離され、
監視され、布で覆われ、そして移動するのもほとんど許されず、
人格も精神もある男に捧げ、
檻のなかに飼い慣らされて、解放されたいとも望まない。
というのも、ご主人様の愛において不幸ではなく、
母親としてもっとも優しい世話することにめいっぱいの喜びを感じていて、
(素晴らしい世話のかずかずだ! ほかのどんな感情にも勝るものだ!)
まったく、自分のお腹を痛めた子供、決して乳離れしない子供を
快く育てていて、――決して卑しい感情を挟むことがないからだ。

62
大理石を敷き詰めた宮殿には、
中央から澱みなく流れる泉が湧き、
泉の泡が心地よい新鮮な空気を撒いていて、
そして、柔らかく快い寝椅子は静寂に包まれていた。
その宮殿に、戦闘と災禍の男・アリが横たわっていた。
老いた尊顔に、
<優穏>が優美な光りを投げかけるのだが、
彼の影に潜む、恥辱にまみれた行為の形跡は、
その風貌には見あたらない。

63
あの白く長い鬚が、<若者>の情熱に
似つかわしくないことはない。
愛は老齢に勝る――と、ハーフィズは言い切ったし、
アナクレオンもそう歌い、それは本当だ。
でも、慈悲の優しい声を嘲笑う罪が、
すべての人に似合わない、老人にはもっとも似合わない罪が、
虎の牙で彼に傷痕を残した。
そして生涯を通じて、血で血を洗う、
流血で始まった生は、血塗られた行為に生を終える。

64
耳にも目にも新しいたくさんのものに囲まれて、
ハロルドはここで疲れた足を休め、
そして周りのイスラムの豪奢に見入った。
しかしそれも束の間、飽和した<威厳>が
都会の喧騒から隠遁した、極上の隠れ家に、
<富>と<華美>の広々とした邸宅に、飽きてしまった。
それがもう少し素朴だったら、本当に快かったのになぁ。
でも、<平穏>は人工楽園を毛嫌いしているし、
<快楽>は、<虚栄>と手をとりあっていて、両者の興趣を損なってしまう。

65
アルバニアの民は獰猛だ、でも奴らに美徳がないってわけじゃない、
連中の美徳が熟れていなかっただけのことだ。
奴らの背中を見た敵があるか?
<戦闘>の責め苦にこれほどよく耐えてる奴がほかにいるか?
厄介で困難な状況の先行き不透明な時にあって、
地理的な要塞が奴らよりもしっかり護ってくれることはない。
奴らの憤怒はすっげえよ!! しかも奴らの友情ときたら確かなもんで、
<感謝>や<勇猛>が血を流せと命じるならば、
頭目が目指すところならどこへでも、迷わず突き進む。

66
貴公子ハロルドは、首領の塔で、
彼らが栄光と成功の戦いへと馳せ参じるのを見た。
そして、その後、悪い男たちが激しく苦しむ
あの悲しむべき時間、彼らの勢力下にあって、
しばらくの間、自ら窮地の犠牲者となった。
しかし、これらの男はハロルドをその屋根の下に匿ってやった。
彼らが無骨者でなければ彼は元気にならなかったし、
同国人の輩であれば彼を避けていただろう。
人の情けが試されるとき、証を立てられる者の、なんと少ないことだろうか!
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ムアッジンの声が響く…

2010年02月07日 18:08

ムガル人

【チャイルドハロルドの巡礼】第2編より、56連-59連
    バイロン作  Shallot B.訳

56
ハロルドは聖なる後宮の静かな塔を通り過ぎた。
そして大きく広すぎる門の下で、
其処此処にその高い地位を誇示している
首長の権力の館を見た。
ふたつとない華麗さの中心に、専制者は坐っていた。
忙しない支度に宮殿は揺れていた。
奴隷、宦官、兵士、客人、そして僧侶が侍している。
内観は宮殿、外観は要塞。
ここにはすべての国の人々が集うようだ。

57
豪奢に粉飾され、武具を備え付けられた待機中の馬と、
たくさんの軍需品が、階下の広い中庭を取り囲んでいた。
階上では、異国の人々の一団が、回廊に魅力を添えていた。
そしてときおり、よく響くこの場所の扉を抜けて、
いくぶん高めの帽子をかぶった韃靼人が、馬を駆って去って行った。
トルコ人、ギリシア人、アルバニア人、そしてムーア人、
ここでは彩とりどりの衣装に身を包み、人々が入り混じる。
そのとき、低く戦いを告げる太鼓の音が一日の終わりを告げたのだった。

58
頭に布を巻きつけて、装飾の施された銃を持ち、
膝丈まである長いコートを着た粗暴なアルバニア人。
そして目に美しい金色刺繍の施された衣服と、
紅のスカーフを身につけたマケドニアの男たち。
恐怖の帽子と段平刀を持つデリー人。
陽気で従順なギリシア人。
色黒いヌビア人の宦官。
辺り一面を支配し、あまりに強すぎて優しくなれず、
滅多に口の利けない鬚を生やしたトルコ人。

59
これらの人々が顕著に混じり合っている。時が巡り変化する、
混在する風景に目をやりながら、集って横になっている者がある。
献身に身をかがめる敬虔なイスラム教徒の者もいる。
煙草を吸う者もあれば、遊ぶ者も見受けられる。
ここには誇らしげに大地を踏みしめるアルバニア人もいる。
ここでは、半ば囁くように、ギリシア人が話すのも聞こえてくる。
聞け! 寺院から聞こえる夜の厳かな音を、
礼拝の時刻を告げるムアッジンの声がイスラムの光塔を揺るがすのだ。
「アッラーのほかに神はいない! 祈りを捧げる人々よ、聞け! 神は偉大なり!」
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酩酊

2010年01月30日 00:39

meiteicup

怒髪天を突き、とは藺相如よ、よく言ったものだ
髪の毛が逆立つ思いも
本当にあるんだね

酒は苦いものだ、とはバイロンよ、よく言ったものだ
きみの言う 酒の杯の底の
生のニガヨモギの粕の 味は確かに甘くない

酩酊した船は 舵を失って
碇を振り下ろす場所を 見失ってしまった

もはや 食欲は失せた
安い酒の苦汁を
舐めながら今夜はもう
眠ることにしよう
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We Weren't Born To Follow −自分を貫け!−

2010年01月23日 23:06



【We Weren't Born To Follow】(「自分を貫け!」)
  作詩 ジョン・ボンジョヴィ&リッチー・サンボラ
   訳 Shallot B.

奇蹟を求めるひとが見つけるもの
困窮しているひとが見つけるもの
つみびとと皮肉屋が見つけ出すもの
弁護のないことを言ってるんじゃない

この道を希望もなく飢えた人々が通って行った
この道を変化の風が通って行った
有罪者と無罪者の傍を歩いて
きみの名前を呼ばれたらどうして手など挙げられる?

そう、そう、そうだ

俺たちは従属するために生まれたんじゃない
そうだ、立ち上がれ
生きることが苦渋に満ちているとき
信じているものを掴み取れ

信じろ 太陽が明日輝くことを
そしてきみの神様と恥じらいが目覚めることを
俺たちは従属するために生まれたんじゃない
きみは自分の信じるもののために立ち上がる

きみがうなずくその声を どうか聞かせて

真似しないひとの物語
罵り侮るひとの物語
絵空事を語っているんじゃないんだよ
諦めたり屈したりすることを言っているんじゃないんだ

そう、そう、そうだ

俺たちは従属するために生まれたんじゃない
そうだ、立ち上がれ
生きることが苦渋に満ちているとき
信じているものを掴み取れ

信じろ 太陽が明日輝くことを
そしてきみの神様と恥じらいが目覚めることを
俺たちは従属するために生まれたんじゃない
きみは自分の信じるもののために立ち上がる

きみがうなずくその声を どうか聞かせて
きみがうなずくその声を どうか聞かせて

俺たちは従属するために生まれたんじゃない
そうだ、立ち上がれ
生きることが苦渋に満ちているとき
信じているものを掴み取れ

信じろ 太陽が明日輝くことを
そしてきみの神様と恥じらいが目覚めることを
俺たちは従属するために生まれたんじゃない
きみは自分の信じるもののために立ち上がる

きみがうなずくその声を どうか聞かせて
きみがうなずくその声を どうか聞かせて

俺たちは従属するために生まれたんじゃない
ああ そうさ 
俺たちは従属するために生まれたんじゃない
ああ そうさ
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徐々に迫ってくる戦士の歌声

2010年01月17日 21:04

ドドナの神殿跡

【チャイルドハロルドの巡礼】第2編より、53連-55連
    バイロン作  Shallot B.訳

53
あぁ! ドドナの地よ、おまえの古き森、
預言の泉、聖なる神託はどこにあるのか?
ゼウスの御声はいかなる谷間にこだましたのか?
いかなる痕跡が<雷神>の社に残っているのか?
すべて、すべては忘れられた。そしてひとは
あっという間の人生の脆い絆が崩れてゆくと嘆いているのか。
やめなさい、なんと愚かな! 神々の運命はひとの運命になってしかるべきなのだ。
おまえは大理石や楢の大樹よりも生き永らえるつもりなのか?
国家が、言語が、世界が時の一撃で斃れなければならないというのに!

54
エピルスの国境は退いてゆき、山々がかき消えてゆく。
じっと天を仰ぐのに疲れた眼は、草色の布に身を包んだとこしえの春のように
滑らかな谷間を、喜んでうち眺める。
平原にでさえ、みすぼらしい美などありはしない。
そこではいくぶん大胆な河が長大な広域を引き裂いて、
岸辺に沿った森は、梢をざわめかせている。
樹々の影は輝く水面に踊り、
時には<真夜中>の荘厳な恍惚のうちに、月明かりとともに眠る。

55
太陽は広大なトマロス山脈の彼方に沈み、
広く猛々しいラオス河は傍を轟々と流れていった。
いつもの夜闇が差し迫って来たけれども、
そのとき、注意深く曲がりながら、急な岸辺を降りて行った。
そして貴公子ハロルドは、まるで空の彗星のように、
光り輝くテパレンのイスラム寺院の光塔を見た。
寺院の壁は河を見下ろしている。徐々に迫ってくる戦士の騒々しい歌声が、
長く続く峡谷に沿って流れる夜風に乗って来るのを、
彼は聞いた。
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