六月の雨

2016年06月15日 14:03

六月の雨
        中原中也

またひとしきり 午前の雨が
菖蒲のいろの みどりいろ
眼うるめる 面長き女
たちあらはれて 消えてゆく

たちあらはれて 消えゆけば
うれひに沈み しとしとと
畠の上に 落ちてゐる
はてしもしれず 落ちてゐる

      お太鼓叩いて 笛吹いて
      あどけない子が 日曜日
      畳の上で 遊びます

      お太鼓叩いて 笛吹いて
      遊んでゐれば 雨が降る
      櫺子の外に 雨が降る



六月ももう半分ですねぇ。2016年が半分終わってしまう…
そういえば、先日堀切菖蒲園というところに行きました。
菖蒲って、本当にジャパネスクですよね。中也の歌う季節感にぴったりだと思いました。
さぁ、今月も半月がんばるどー!^U^

落葉(ヴェルレーヌ作、上田敏訳)

2013年11月13日 15:50

autumn132

落葉
 ヴェルレーヌ作
 上田敏訳(『海潮音』より抜粋)

秋の日の
ヰ゛オロンの
ためいきの
ひたぶるに
身にしみて
うら悲し。

鐘のおとに
胸ふたぎ
色かへて
涙ぐむ
過ぎし日の
おもひでや。

げにわれは
うらぶれて
ここかしこ
さだめなく
とび散らふ
落葉かな。
autumn134

[ 続きを読む ]

枝垂れ桜の枝にかけようとして

2012年04月14日 22:45

枝垂れの桜2012

おこま婆 (頷いて)川上の幾世の渡しに枝垂れ桜が一本あるだろ? お冬は、そのへんに生えている仏座や菘であんだ草紐を、あの枝垂れ桜の枝にかけようとしてよじ登ったらしいのさ。そしたら、つれない枝だよ、ぽきんと折れて、あの娘は草紐を手にからませたまま新川の流れにまっさかさま。着物の裾が大きくひろがって、白い躰が緑色の水に浮いては沈み、こんなことをいっちゃなんだけどとてもきれいだったそうだよ。そしてしばらくのあいだお冬は流れに押し流されながら歌を口遊んでいたらしいよ。/[…]自分が死ぬのを知らぬ気に、とても明るい声だったってさ。/[…]だがそれもわずかなあいだ。やがて急に水をたらふく飲み込み、ぶくぶくっと沈んだかと思うとそのまま川底へ……

井上ひさし「天保十二年のシェイクスピア」(『井上ひさし全芝居 そのニ』(株)新潮社、1984年、89-90頁所収)。
[ 続きを読む ]

花のたましい

2012年04月14日 22:26

散ったお花のたましい

【花のたましい】
    金子みすゞ

  散ったお花のたましいは、
  み仏さまの花ぞのに、
  ひとつ残らずうまれるの。

  だって、お花はやさしくて、
  おてんとさまが呼ぶときに、
  ぱっとひらいて、ほほえんで、
  蝶々にあまい蜜をやり、
  人にゃ匂いをみなくれて、

  風がおいでとよぶときに、
  やはりすなおについてゆき、

  なきがらさえも、ままごとの、
  御飯になってくれるから。

金子みすゞ童謡詩集シリーズ 全3冊金子みすゞ童謡詩集シリーズ 全3冊
(2009/02/25)
金子 みすゞ

商品詳細を見る
[ 続きを読む ]

憂鬱なる花見

2012年04月05日 22:30

桜@東博2012

【憂鬱なる花見】
          作 萩原朔太郎

憂鬱なる桜が遠くからにほひはじめた
桜の枝はいちめんにひろがつてゐる
日光はきらきらとしてはなはだまぶしい
私は密閉した家の内部に住み
日毎に野菜をたべ 魚やあひるの卵をたべる
その卵や肉はくさりはじめた
遠く桜のはなは酢え
桜のはなの酢えた匂ひはうつたうしい
いまひとびとは帽子をかぶつて外光の下を歩きにでる
さうして日光が遠くにかがやいてゐる
けれども私はこの暗い室内にひとりで坐つて
思ひをはるかなる桜のはなの下によせ
野山にたはむれる青春の男女によせる
ああいかに幸福なる人生がそこにあるか
なんといふよろこびが輝やいてゐることか
いちめんに枝をひろげた桜の花の下で
わかい娘たちは踊ををどる
娘たちの白くみがいた踊の手足
しなやかにおよげる衣装
ああ そこにもここにも どんなにうつくしい曲線がもつれあつてゐることか
花見のうたごゑは横笛のやうにのどかで
かぎりなき憂鬱のひびきをもつてきこえる。
いま私の心は涙をもてぬぐはれ
閉ぢこめたる窓のほとりに力なくすすりなく
ああこのひとつのまづしき心はなにものの生命《いのち》をもとめ
なにものの影をみつめて泣いてゐるのか
ただいちめんに酢えくされたる美しい世界のはてで
遠く花見の憂鬱なる横笛のひびきをきく。
[ 続きを読む ]


Articles