錯乱[Ⅱ] ③

2004年10月30日 02:39

 僕は想像を絶するオペラになった。僕は存在するものが皆、幸運を持っているのを見た。行動は、生ではなく、何らかの力や苛立ちを浪費する一つの方法でしかない。倫理はアタマの弱さだ。
 それぞれの存在には、いくつもの人生が他にあったはずだって僕には思えた。この紳士は自分のしていることを理解していない。というのは、この人は天使なのだから。この家族は犬の群れだ。たくさんの人の前で、彼らの他の人生の瞬間に、僕は大声で話したんだ。――こんなふうに、僕は豚を一匹愛しました。
 どんな狂った屁理屈も、――みんなは隠している狂気も――僕には忘れられなかった。僕は全部を復唱できるだろう、やりかたはわかっているんだもの。
 僕の健康は脅かされた。恐怖が到来した。僕は幾日も眠りにおちていた、そして、起き上がって、なによりも悲しい夢を見続けていた。死期はそこまで迫っていた。そして、危険な道を通って、僕の儚さは、自分を導いていた、薄暗く風の吹き荒れる祖国精霊界とこの世との境目まで。
 僕は旅をして、自分の想像を超えた、一続きの魔法に気晴らしをみいださなくてはならなかった。ちょうど汚れを清めてくれるようで好きだった海の上、僕は慰めの十字架を見た。僕は虹に呪われていたんだ。幸福は僕の運命であり、呵責であり、蛆だった。僕の人生は、力と美に捧げられるには、いつもあまりにデカ過ぎるだろう。
 しあわせ! 死に対しては甘いその牙が、僕に雄鶏の声で告げたのさ、――キリストノ来タ、朝早ク、――最も暗い街の中。

四季はめぐるよ、お城はのびるよ、
無傷のこころはどこへやら?

僕の探した魔法はね、
避けては通れぬシアワセさ。

ガリアの鶏が歌うたび
シアワセに頭下げるのよ。

羨まし、なんて思わない、
僕はシアワセいっぱいさ。

こころもからだも魅せられて、
努力なんて消えちゃった。

四季はめぐるよ、お城はのびるよ!

シアワセのときは、もうおしまい!
うつしよのときも、もうおしまい。

四季はめぐるよ、お城はのびるよ!
   ―――――
それももう終わったことだよ。今じゃ、僕だって、美を賞賛することくらい、知ってるぜ。
   ―――――

錯乱[Ⅱ] ②

2004年10月02日 02:35

 僕の言葉の錬金術には、古びた手法がかなりあった。
 僕は単純な幻には慣れてしまった。やがて僕は工場の代わりにモスクを、天使たちが奏でる太鼓の学校を、天空の道を駆け抜ける四輪馬車を、湖の底の応接間を、怪物や神秘を、とても冷ややかに眺めていた。芝居のタイトルが、僕の前に恐怖を作り上げた。
 それから僕は、言葉の幻影で、自分の魔術の出来方を説明した!
 僕はとうとう自分の精神の混乱を、聖なるものだと思い始めた。僕は何も為さない人間だった。重たい熱病の虜になっていたから。僕は獣の幸福が――冥府の外れの典型的な純粋さみたいな青虫や、純潔の眠りのようなモグラが、羨ましかったんだ!
 性格は気難しくなった。僕は小唄めいた「さよなら」を世界に告げた。

   <最高塔の歌>
 おいで おいで
 夢見る時間

 自分を 忘れてしまうほど
 今まで私は 耐えてきた
 恐れ 苦しみ 何もかも
 空へと飛んで 消えてった
 熱病にも似た 渇きはね
 私の血脈 鈍くする

 おいで おいで
 夢見る時間

 忘れるはずの 草原は
 広く 広く 拡がって
 咲き乱れてる 狂い咲く
 薫る花々 毒の麦
 そこに激しく 喚くのは
 汚れた蝿の 唸り声

 おいで おいで
 夢見る時間
     ―――――

 砂漠、焼け落ちた果樹園、色褪せた店、冷めたホットドリンクなんかが、僕は大好きだった。臭い裏路地を足を引き摺るようにして歩いていた、そして、眼を固く閉ざし、焔の太陽神に身を曝していた。
 「将軍、もしも廃墟にあるおまえの城壁のうえに古びた大砲が残されているのなら、僕たちを乾いた土の塊で砲撃してくれたまえ。煌びやかな店のショーウィンドウへ! レストランバーへ! 街に灰燼を喰らわせろ。 樋嘴を錆びつかせろ。 燃え立つルビーの火の粉でどこも部屋を満たしてやるんだ…。」
 あぁ! 木賃宿の共同便所で、小蝿が瑠璃麝香草にうっとりしているよ。やがて陽の光に溶け入ってしまう!

  <飢餓>
僕の食欲 そそるのは
泥やつちくれ 石ころばかり
僕が毎朝 食べるのは
空気や石炭 岩に鉄

僕の飢餓よ、廻れ 廻れ
飢餓よ 響きの牧草さ
昼顔の心躍る毒舌を
ドキドキ惹きつけてやるのさ

粉々に砕けた 小石を食べな
教会の古びた小石だよ
昔の洪水の 砂利だよ
曇った谷間に 散りばめられたパン屑さ
  ―――
狼は 葉群の下で 吠えていた
彼の御馳走 綺麗な鳥の
羽 吐きながら。
こんなふうに 僕も焦がれる

サラダ菜も フルーツも
摘み取られるのを 待つばかり
けれど垣根の蜘蛛さんは
スミレの花しか食べないよ

眠りたい! 煮えたぎりたいよ
ソロモン王の 祭壇で。
煮立った泡は 流れていくよ 赤錆の上
そして セドロン河と混じり合う。

 ようやく、あぁシアワセよ、あぁ理性よ、僕は空から蒼さを引き剥がしたよ。それは黒の中に在るものだけど。そして僕は「自然な」光の、金色の煌きとなって生きていた。
 嬉しくて、僕は出来るだけお道化てて錯乱した表現を用いてきた。

 見つけたよ!
 何を? 永遠さ。
 太陽と溶け合える
  海のことさ。

 永遠なるは僕の魂、
 孤独な夜にも
 炎の真昼も
 きみの祈りを守るんだ。

 それゆえ、きみは解き放たれろ、
 憂き世の人の賛美から
 ありふれた世の激動から
 こころ赴くまま…

 ――希望はあり得ん。
    昇天祈願もあり得ない。
 科学と忍耐、
 責め苦は確実。

 もはや明日も、
 繻子の燠よ、
   きみの熱は
   義務なのさ。

 見つけたよ!
 何を? 永遠さ。
 太陽と溶け合える
  海のことさ。

  ―――

錯乱[Ⅱ] ①

2004年10月02日 02:31

 錯乱[Ⅱ]
 言葉の錬金術


 僕の番だね。僕の愚行っていう一つの物語。
 だいぶ前から、僕はいろんな光景をよく知ってるんだと自慢してきたし、絵画や現代詩の栄誉なんてつまんないもんだって決めつけてた。
 僕が大好きだったのは、入口の上の方にかかっている絵や、舞台背景、大道芸人の垂れ幕、看板、大衆写本の挿絵といった、ちゃっちい絵。古臭い文学、教会のラテン語、誤字だらけのエッチ本、おばあちゃんたちの物語、妖精物語、子供向けのちっちゃい本、古臭いオペラ、間抜けな早口言葉、素朴な小唄。
 僕は、十字軍、バックパック旅行、歴史のない共和国、揉消された宗教戦争、生活の革新、民族と大陸の大移動を夢見てきた。そして僕は、魔法はみんな信じてた。
 僕は母音の色を思いついた!――「あ」は黒、「え」は白、「い」は赤、「お」は青、「う」は緑。――僕はそれぞれの子音の形と動きを整えた。それから、直感的なリズムで、僕はいつのまにか全ての感覚に触れる詩的言語を考え出すことに夢中になった。僕は感覚を言葉にするのを楽しみにしていたんだ。
 手始めには習作。いくつか静寂や夜を描いたけれど、言葉に表せないものを書き留めていた。眩暈を見詰めていたのさ。
             ――――
 鳥たち 羊の群れ 村の娘は 遐く 遐く
 何を飲んだの? 榛の優しい森に囲まれた
 躑躅の中に 膝をついて
 昼下がり なんて生温い緑色した霧の中!

 この幼い河の中から 僕は何を飲めたのだろう?
 ――寡黙な楡 花のない芝草 曇天――
 この黄色い瓢箪からは何が飲める? 僕の大切な小屋は遐くて
 汗びっしょりなのは 金色リキュールのせい

 僕はボロいモーテルの看板のフリしてさ
 ――嵐が空を追い払いにきたぜ
 夕暮れには森の水が まっさらな砂へと消えてった
 神風が沼に投げつけたのは 氷 氷

 泣きながら、僕は黄金を見ていたよ――でも飲めなかった――
             ――――
朝の四時 夏
愛の睡み まだ続く
小さな森の 木陰のもとに
宴の痕は消えてゆく 夜の馨が消えてゆく

遠く 広い広い工場で
妖精たちの太陽のもとで
――Tシャツ姿で腕まくり――
もう働いてるのは 船大工たち

苔の荒野に 黙ったままで
作られてゆく 豪華な天井
街は描くよ その天井に
偽りの 天空を

この素晴らしい職人たちから
バビロン王の下僕たちから
あぁ女神さま! ほんの束の間
花冠の心を抱いた 情夫たちから離れていて

あぁ羊飼いのお妃さま!
船大工たちに持ってきてくれ 命の水を 神酒を
彼らの強さが 穏やかに
真昼の海に飛び込めるのを 待つように
――――


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