l'orgueil

2008年05月31日 15:44

晩春雨歌10

暗い夜空の底深く
暗い砂漠の奥深く
金色の星が小さくひとつ
きらり ひかり

小さな雫がひとすじ ふたすじ
絶えて果てた大地にぽたり
落ちました

冷たい砂漠の砂のうえには
ほらほら白い頭蓋骨
かつては牙を剥いた
その口も もはや

かつては枯れぬ泉を探した
鋭い眼も もはや

失われ

傍には孤独なアザミが一輪
咲かない蕾をつけたまま
立ち枯れて

そこへ

金色の星の落とした雫が
じとっ と滲んでゆくのでした

le cerf-volant de Lamia

2008年05月28日 01:30

晩春雨歌9

ラミア、
あなたの白くてつよい凧は、
あの日荒地の空を舞った
あの日の空はどこまでも青く
砂の埃も届かなかった

ねえ ラミア、
あなたが己の意志を貫き
地雷の屑と消えたとき
綺麗なあなたの魂は
糸の千切れた凧に乗り

果てない荒野の
見果てぬ海へと
砂漠の向こうの紺碧へと
飛んでゆけたのかしら…

この土塊から解き放たれれば
地上のしがらみからも
遠い御空へ解き放たれて
藻屑の海を彷徨うように

ひとり ゆらり ゆらり と
漂えるかしら…
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陽気な死人

2008年05月27日 01:29

晩春雨歌8

【陽気な死人】  ボードレール 作(『悪の華』72)

蝸牛でいっぱいの、よく肥えた土の中に、
私は自分で深い墓穴を掘りたいものだ、
そこに、悠々と、わが古びた骨を横たえ、
波間にただよう鱶をさながら、忘却の中に眠るために。

私は遺言を憎む、そして私は墓碑を憎む。
世の人の一滴の涙を乞うほどならばむしろ、
生きながら、鴉どもを招き寄せ、穢らわしい
わが軀のあらゆる端を血まみれにつつかせよう。

おお蛆虫ども! 耳もなく眼もない陰気なともがらよ、
見よ、お前らの方へ、自由で陽気な死人がやってくるのを。
悟りすました道楽者たち、腐敗物の息子らよ、

さあ悔いもなく、私の残骸の中を歩きまわれ、
そして、教えてくれたまえ、魂もない、死人の中の死人、
この古い身体にも、まだ何か責め苦を与えられるものかどうか!

(阿部良雄訳『ボードレール全詩集Ⅰ』ちくま文庫、165-166頁より抜粋)
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アクション前のハムレット

2008年05月24日 17:40

晩春雨歌6

生きるべきか死ぬべきか、それが問題だ。
どちらが立派な態度なのだろう。
暴虐な運命の矢弾に耐えることか
それとも苦難の海に武器を持って挑み
決着をつけることか。死ぬことは眠ること、それだけだ。
そして眠ることで終わりにできるのだ、
胸の痛みや、肉体が引き受けなくてはならない
千もの自然な苦しみを。 それこそ願ってやまない結末だ。
死ぬこと、眠ること。
眠ること、多分夢を見ること。あぁ、それが厄介だ。
なぜなら、この生身のしがらみから解き放たれたときに、
死という眠りの中で、どんな夢をみるのか?
そのことが俺たちをためらわせるのだ――だから
惨禍ある人生を長引かせてしまうという想念があるのだ。
そうでなければ、短剣の一突きで
自分のこの手で決着をつけられるのに、
この世の鞭や嘲りに、
尊大な者の侮辱に、役人の傲慢に、
長引く裁判に、報われない愛の痛みに誰が耐えられるだろうか。
死後の恐ろしいもの、
旅立った者が、境界から戻ってこない
未知の国が、意志をまごつかせ、
見知らぬところへ飛び込むよりは、
今のいやなことに耐えるほうがましだと思わせることがなければ、
苦難だらけの人生で歯をくいしばり、汗を流すという重荷に、
誰が耐えられるのだろうか。
そして善悪の意識が俺たちみんなを臆病にする。
そして決意という本来の血色の良さは、
蒼ざめた想念の色合いで衰えさせられてしまい、
そして、本当に重要な企ては、
この考えから、その道筋を外れてしまい、
行動という名義を失ってしまうのだ。
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きみの成長記録

2008年05月23日 21:40

くれがたの幻影

すこしずつ
おとなになってく少年たち

すこしずつ
おとなになってく青年たち

きみたちの成長記録
記憶のショットで あふれそう

あんなにちいちゃかったきみ
あんなにあどけなかったきみ
あんなに熱っぽかったきみ

いまはもう――
大きくなって

すっかり声も低くなって
すっかり立場をわきまえて
すっかり落ち着いて

あしのうらを
しっかり大地につけて
果てない空を
あおの向こうがわをみてる

青い柳を歌いましょう

2008年05月17日 20:22

晩春雨歌7

樹のかげ あの娘はすわります
かわいそうに溜息ついて
青い柳を歌いましょう
胸に手を置き 頭を膝に
歌え 柳 柳 柳の歌を
そばを流れる 澱まぬ流れよ、あの娘のなげきを囁いて
歌え 柳 柳 柳の歌を
流れて落ちた辛い涙、硬い石をやわらかにする
歌え 柳 柳 柳の歌を
私の額を飾るはずの 青い柳を歌いましょう
どうか彼を責めないで、蔑みは私のせいだから
私の恋はまちがいと 私は認め、彼は言った
歌え 柳 柳 柳の歌を
俺はいろんな女と遊ぶ おまえもいろんな男と寝るだろう
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晴れ

2008年05月08日 18:34

初夏の風

Ⅰ 青空

どうか もう泣かないで
いつものあなたは美しく
遙かな闇を背負いつつ
やさしくみんなに ほほえんで

あなたがわらうと
地上の花はいっせいに
あなたにむかって ほほえむよ
あなたがそよぐと
ポプラの若木が ざわめくよ
だから きらめく初夏の青空さん
どうか もう泣かないで


Ⅱ おひさま

あなたにむかって 跳ねるおさかな
 いったいどれだけ いるのかな
あなたにむかって 飛び立つ鳥は
 いったいどれだけ いるのかな
あなたにむかって 裂けるつぼみは
 いったいどれだけ あるのかな
あなたのことを あがめるひとは
 いったいどれだけ いるのかな

まぶしすぎて
 あなたのことを みつめられない
わたしはただ 
あなたの影を 追うばかり



やわらかな陽のさしこむ午後
クレマチスの輝く擦硝子の内側で
私はひんやりした空気を頬に感じながら
真っ白な太陽を窓の外に描いているの

女王スカアーの嗤い

2008年05月06日 21:00

晩春雨歌4

【女王スカアーの嗤い】(抜粋) フィオナ・マクラウド作(1896年)

 クフランが、戦士女王スカアーが死の影を剣の掌に持って支配していたスカイの島を去ったとき、彼の美しさゆえに悲しみがありました。[…]スカイに来た当初、クフランはほんの少年でしたが、大人の男になって去りました。スカアーも他の女たちも、彼より美しいものを見たことはありませんでした。彼は背が高く、若松のようにしなやかでした。彼の肌は女性の胸のように白かったし、瞳は激しく輝く蒼色で、太陽のように白い明かりが射していました。[…]
 しかし、クフランはスカイの誰も愛しませんでしたし、誰も敢えておおっぴらにクフランを愛そうとはしませんでした。というのも、スカアーの心が彼を望んでいたからです。女王の心を無視するなんて、死装束をすすんで着るようなものでした。スカアーはレルグの息子のクフランに、隔てなく接し続けました。彼女が彼の明るい顔を見ているとき、彼女の眼には嵐のうえにかかる暗い筋などありませんでした。女王は、クフランが些細なことでとある娘を軽く罵れば、喜んで娘ひとり惨殺しました。そしてかつて、スカアーが顔立ちのよい男性だからと、三人の海賊の捕虜を助けてやったとき、若きクフランは黙って彼らを見詰めていたのです。すると彼女は自分の刀を、捕虜たちのそれぞれ心臓に突き刺して、赤を滴らせている刃を、愛の花として彼におくりました。 しかしクフランは夢想家でした。そして彼は彼の夢みたものを愛していました。それはスカアーではありませんでした。荒波に揉まれた人々や、不名誉な戦闘の退却で座礁した人々にとって、ミスト島を恐怖の場所へと変えていた、スカアーの女兵たちの誰でもありませんでした。
 スカアーは自分の甲斐のない望みに深く考えこんでいました。かつて、風のない影たちこめる夕暮れ時に、彼女は彼に訊きました。誰か他の女を愛しているのか、と。
 「ええ、」と彼は言いました。「イテーンです。」
 彼女の息は速く激しくなりました。そして、クフランの白い胸元から真っ赤な血を滴らせて、彼が彼女の足元で白く横たわっているのを思うことは、彼女にとっての歓びでした。しかし、彼女は下唇をかんで、静かに言いました。
 「イテーンって、誰?」
 「ミデルの妻です。」
 そう言って、若者は振りかえり、高慢に立ち去ったのです。[(スカアーは、このイテーンが女神さまだと知らなかったのです。)…]
 スカアーは、彼が砦の篝火の炎に隠れて見えなくなるまで、彼を見詰めていました。長いこと、彼女は深くもの思いにふけりながら、いつまでもそこに立っていたのでした。沈みゆく太陽のうえで茶色の羽のようだった月の鎌が、暗い青藍の空で銀色に輝いて立ち昇り、そこで眩い星のため海の航路のようになるまで。[…]女の心の暗い沼がもの思いの影でもっと黒くなりました。ゆっくりと、彼女は闇夜を抜けて砦のほうへ歩きました。そして呟きました。
 「月は時々東から昇っているように見えるし、それから、今のように、時々初めは西のほうに見えている。愛する心もおなじこと。もしも私が西に行けば、見てごらん、月は日の道に沿って昇るかもしれない。もし私が東に行けば、見てごらん、月は夕日のうえで白く輝いているかもしれない。ひとの心を知っている者で、一体誰が、愛の月が満月となって東に現れる時や、鎌の形で西に現れる時を言い当てられるというの?」 
 [(次の日、クフランにアイルランドからお使いがきて、彼に至急帰還するように告げます。そして彼もそれを承諾します。)……]
 彼の出立の夜、誰もスカアーを見ませんでした。彼女の眼には炎がありました。
 月の昇るころ、彼女は砦に帰ってきました。彼女に出会う人は誰も、彼女の顔を見ませんでした。雲の背後の雷のように、そこには死がありました。しかし、兵の首領であるメエヴは、スカアーを探し出し、良い知らせを持ってきました。
 「そのいい知らせのために、あんたを殺してやりたいよ、メエヴ。」と、闇の女王はその女戦士に言いました。「だって、クフランがまた戻ってくるということ以外、いい知らせなんてないからだ。それだけなんだよ。でも、あんたを助けてやる。あの日、夏の海賊たちが南であたしの砦を焼いたとき、あんたはあたしを助けてくれたからね。」しかし、スカアーはこの知らせを喜んでいました。
 [(三隻の海賊船が難破し、二十人ばかりの男たちが陸に打ち上げられたのです。スカアーは女兵たちを呼び集め、彼らを拘束しました。大きな樫の枝に彼らの長い髪を結び、つるしました。)…]彼らは強い男たち、戦士でした。しかし、彼らの黄色い髪はもっと強く、彼らの揺れている樫の木の枝はもっと強く、萎垂れた果物のようにいたづらに彼らを揺する風はもっと強かったのです。星たちは彼らの髪を銀色に輝かせ、篝火の炎は彼らの踊っている足の裏を赤く染めていました。
 女王スカアーは高らかに、いつまでも笑っていました。そこにはそれ以外の音もありませんでした。彼女がそういう笑い方をするときには、いつまでも誰一人音をたてませんでした。彼女の狂気があらわれていたからです。やがてメエヴが進み出て、持っていた小さな琴をかき鳴らし、その粗野な音色に合わせて、海賊たちの死の歌を歌いました。
[…]メエヴが歌い止めたとき、そこにいた女たちは、剣や槍を揺らし、夜の中に篝火の炎を揺らめかせ、叫んでいました。[…]
 スカアーはもはや笑いませんでした。今、彼女は疲れていました。死の歓びなど、何だというの? 心の抱えている痛みには、クフランと呼ばれる痛みには。
 それからほどなく、砦は闇に包まれました。炎はつぎつぎに消えていきます。砦を見張る篝火だけが、夜に赤く輝いていました。深い平穏がすべてを覆いました。若い雌牛も鳴かず、犬も月に吠えませんでした。風は吐息のようになり、花から花へと香りをそよがせるのにも無力でした。大きな樫の木の枝には、古い松の木から垂れ下がる毒人参のように、弱々しく、灰色をして、動かない奇妙な果実が揺れていました。
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夢のなかの夢

2008年05月06日 20:50

晩春雨歌5

 久しぶりに、一気に読破しました~…ちくま文庫の『かなしき女王』。凝り性+時間に少しゆとりがあったので、原文のテクストをサイトから探して、訳を試みました。最初は全部訳すつもりだったんですが、まー、へたれなもんで、抜粋にしました。かなりオススメです☆
かなしき女王―ケルト幻想作品集 (ちくま文庫)かなしき女王―ケルト幻想作品集 (ちくま文庫)
(2005/11)
フィオナ マクラウド

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夜更けの波音

2008年05月04日 01:43

晩春雨歌3

夜気なまぬるくたちこめて
窓辺に置かれたチューリップ
そのはなびらがばらばらと
ほどけて桟に落ちました
立ってすがれたその花は
何も思うこともなく
遠く浜辺のできごとを
じっと見つめているのでした

浜辺では
数え切れないヒルガオが
いよいよ絢爛咲き誇り
広げたばかりの羽を持つ
蝶々を競い誘います
いろとりどりの蝶々が
ヒルガオの顔にとまっては
飛び とまっては 飛び
ゆらゆら揺られているのでした

ひとつの黒い揚羽蝶
それはそれは愛らしい
頬をあからめたヒルガオに
とまろうとした そのときに
遠くの窓を 見上げたのです

暗闇を泳ぐ柔らな雲が
月に照らされゆったりと
ゆったりと流れて行くのです

あたりは真っ暗になって
何も見えなかったので
それは薄桃色の優しい花に
そっととまりくちづけしました

窓辺に眠るおばあちゃん
額に深く皺を刻み
幸せな夢を見ています
それは みんな遠い昔
遙か遠ぃぃ青の底

――チューリップは
窓から見える波の音
眼に熱く焼きつけて
ひらたい腕をそっと伸ばして
さいごのひとつのはなびらを
ぼたりと黙って落としました
紅く 紅く
紅く染めて
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