雨と風と

2008年06月23日 00:08

red roses2

【雨と風と】 エミリー・ブロンテ 作

家の中は静まりかえり――
外では激しい風と雨。
けれども激しい風と雨を通じて
何かが私の心に囁いている。
          ……もう聞こえない。
もう聞こえないの? なぜもう聞こえぬ?
記憶はきみの力に劣らぬ本当の力を持っているのよ。
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夜想

2008年06月22日 23:58

red roses

【夜想】 エミリー・ブロンテ 作

ひねもす私は働いた、痛みもなしに
学びの黄金の採掘場で――
けれど今また暮れがたに
柔らに差しこむ月明かり。

大地には雪は見えず
風にも波にも霜は見えない――
このうえもなく優しい音色で
南の風吹き、凍った墓をうち崩した。

さ夜ふけて、冬の絶え果ててゆくのを目にし
ここらあたりを彷徨うことは、心愉しいことなのだ、
夏の空ほど暖かく、
夏の陽射しのような心持ち。

ああ、どうか今私を優しく揺する
平静を私が失くしませんように。
時間がわが若い顔を変え
歳月がわが額に影を落とすのだとしても。

私にも、みなさまにもあてはまること、
どうか今までどおり健やかに、
情熱の呼び声から遠く離れ、
私に潜む激情を抑えることができますように。
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猫たち

2008年06月08日 01:13

un chat

【猫たち】 ボードレール 作 (『悪の華』66)

熱烈な恋人たちも、謹厳な学者たちも、
熟した齢ともなれば、ひとしなみに猫を愛する、
彼らと同じ寒がりで、引きこもりがちの猫たち、
精気あふれておとなしい、家の誇りの猫たちを。

学問と逸楽との友である、猫たちは、
沈黙を、身の毛もよだつ暗闇を、探しもとめる。
冥土の神は、彼らの葬送の駿馬に使ったでもあろう、
もしも猫たちが、高い誇りを捨て、隷従に甘んじたならば。

瞑想にふける猫たちの、気高い態度は、
寂寥の地の奥に身を伸ばした、巨大なスフィンクスの、
果てもない夢に眠り入るかと見える姿にさながら。

豊かさの尽きぬ彼らの腰は、魔法の花火に満ちて、
黄金の小さな粒が、細かい砂のように、
彼らの神秘な瞳に、おぼろな星とかがやく。

(阿部良雄訳『ボードレール全詩集Ⅰ』ちくま文庫、158-159頁より抜粋)
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血を吐くやうなせつなさに

2008年06月02日 01:27

晩春雨歌11

  【夏】 中原中也 作

血を吐くやうな 倦うさ、たゆけさ
今日の日も畑に日は照り、麦に日は照り
睡るがやうな悲しさに、み空をとほく
血を吐くやうな倦うさ、たゆけさ

空は燃え、畑はつづき
雲浮び、眩しく光り
今日の日も陽は炎ゆる、地は睡る
血を吐くやうなせつなさに。

嵐のやうな心の歴史は
終焉つてしまつたもののやうに
そこから繰れる一つの緒もないもののやうに
燃ゆる日の彼方に睡る。

私は残る、亡骸として――
血を吐くやうなせつなさかなしさ。
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