悪魔たちの飛び交う戦場

2009年02月28日 16:17

砧公園の梅09の4

【チャイルドハロルドの巡礼】第1編より、37連-40連
    バイロン作  Shallot B.訳
37
目覚めろ! スペインの子孫たちよ! 目覚めるんだ! 進軍せよ!
見ろ! おまえたちのいにしえの女神<騎士道>が叫んでるぜ!
しかし、昔みたいに、その血に飢えた槍を使うことはないし、
天へと深紅の羽を震わせることもない。
今、<騎士道>は燃える砲火の煙に飛び乗り、
雷のなか、おまえの砲撃の咆哮で語る!
轟のたび、彼女は呼ぶのだ。――「目覚めろ! 目覚めろ!」
答えろ、<騎士道>の声は昔よりもか細いの?
その戦いの歌がアンダルシアの岸辺に聞こえていたときよりも?

38
聞け! 恐ろしい調べを奏でる蹄の音が聞こえなかったか?
平原で衝突する刃物の音が聞こえなかったか?
誰かを殴り硝煙をあげるサーベルが見えなかったのか?
独裁者と独裁者の奴隷たちの足下に倒れるまえに、
おまえの同志を助けてやらなかったのか?――死の炎が、
砲火が、高く炸裂する。――岩から岩へ、
射撃ごとに幾千の命が失われるのだ。
<死神>は燃える硫黄の熱風に乗り、
血に染まった<戦闘>は足跡を残し、そして国家は震撼する。

39
見ろ! 血塗られた<戦闘>の<巨人>が、山の上に立ちはだかる!
その鮮血に染まった髪は陽を浴びて鈍く光り、
その烈火の手のなかで死を招く銃撃を輝かせながら、
そして眼は睨むものすべてを焦土と化する。
落ち着きなくあたりを見回し、やがて一点を見据え、ほどなく
遠くに閃光を浴びせる。――そして、その鋼の足元には、
<破壊>がしゃがみこんで、どんな行いがなされるのかをじっと見つめているのだ。
この朝、列強3ヶ国が集い、
<破壊>の神社の面前で、彼の大好きな血を流すからだ。

40
なんて! 見事な光景!
(そこには、友や兄弟のいない者にとっての話だけど。)
刺繍の混じった敵の懸章や、
空に輝く様々な武器や!
なんて豪奢な猟犬が塒から飛び出し、
牙を剥き出し、獲物を求め、うなるなんて!
だれもが猟には加わるけれど、ほとんどは獲物にありつけやしない。
<墓>が主な獲物を奪い去って、
<荒廃>は歓喜のあまり、猟犬の陣をかき乱すことさえしないのさ。
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盛者必衰

2009年02月28日 16:02

砧公園の梅09の3

【チャイルドハロルドの巡礼】第1編より、35連-36連
    バイロン作  Shallot B.訳

35
あぁ、麗しのスペインよ! ロマンス溢れる名高き大地よ!
凌辱された娘のために、謀反を起こした父親が、
かつての味方の血で山の清流を変色させた軍勢を初めて召集したとき、
裏切り者討伐の勇者が掲げた十字架はどこだ?
おまえの子孫たちの頭上にはためき、強い風に翻り勝利を示し、
ついに略奪者たちを岸辺へと追いたてた、
あの往昔の血塗られた旗々はどこだ?
イスラムの女たちの叫び声でアフリカのこだまがうち震えるとき、
十字架は赤く輝き、蒼褪めた三日月が欠けたのだった。

36
栄誉ある物語で短い歌が満たせないのか?
あぁ! これが、なんと、英雄のあり余るほどの運命なのか!
御影石が崩れ落ち、記録が薄れてゆくとき、
ひとりの百姓の悲しみが、英雄の逸話の命を永らえさせる。
誇りよ! おまえの眼を、天から自身へと向け、
いかに猛者がひとつの歌へと収縮するかを見るがいい!
書物や、記念柱や、殿堂が、おまえを偉大にしておけるのか?
それとも、<お世辞>がおまえと共に眠り、<歴史>がおまえを歪めるときに、
おまえは<伝承>の素朴な語り口を信じなければならないのか?
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河に馳せる想念

2009年02月28日 15:56

ジャスミンの夢(壷の中)
【チャイルドハロルドの巡礼】第1編より、30連-34連
    バイロン作  Shallot B.訳

30
果実の撓わに実る谷を越え、ロマンチックな丘を越えて
(あぁ そんな丘が自由な民を鼓舞させますように!)
眼は眺めに 喜びに満ちて溢れてしまう。
貴公子ハロルドはたくさんの歓喜に満ちた場所をくぐり抜けてく。
不精な奴らは、それがバカがたどる道のりにすぎないと思う、
安楽椅子を捨て去って、追求のための苦しく長い長い道のりを
選ぶ者があるなんて、まったくビックリしちまう。
あぁ、山の空気は優しくて、
太り切った<安楽>には決して知れない生命がある。

31
視界は徐々に荒涼となり、ついに丘々は遠ざかる。
そして、植物もまばらでなだらかな峡谷が広がる。
果てない地平線が境をなす平原が続く!
眼の届くかぎり、果てしなく、スペインの王国が現れる。
そこでは羊飼いたちが群の世話をしている。
商人たちはその羊毛が良質であるとよく分かっているけれど。
でも今、羊飼いの腕は自分の子羊を守らなければならない。
だって、スペインが強敵に包囲され、みんな自分のものを護らなけりゃならない、
でなきゃ<服従>の嘆きを分かち合わなきゃならないんだ。

32
スペインとポルトガルの境目は、
競いあう王国は、どんな国境線で分かたれていると思いますかね?
妬みあう国の妃が出会うまえに、
河は大流を介入させるのかな?
または暗い山脈が、巌重なるプライドを隆起させるのだろうか?
または万里の長城にも似た人工の壁を作るのか?
――防壁も、深くて広い河もない、
恐ろしい巌山も、暗く聳える山々もない。
フランスとスペインの土地を分かつピレネーの巌山みたいなものなどないのだ。

33
しかし、その両岸には銀色の流れが揺れているだけで、
競いあう王国が草木の繁る岸辺に迫るにしても、
その小川の名前さえはっきりしない。
ここに、無学な羊飼いだけがその杖に寄りかかり、
さざめく波を眺めてる。
波は憎き敵の間を縫って、なおも穏やかに流れてる。
百姓どもは気高い公爵のように誇らしげなんだ。
スペインの農夫は、自分ともっとも賤しいポルトガルの奴隷との違いが、
どんなものだか、よーくご存知なのさ。

34
曖昧な国境を越えてまもなく、
暗い大河が、ざわめき広がりながらも、
古代の歌に詠みこまれた陰鬱な波に
その力を逆巻かせている。
その昔岸辺には、壮麗に鎖帷子を着こなした
イスラム教徒とキリスト教徒の騎士の軍隊が押し寄せた。
ここに彼らの競走は終わり、ここに猛者は滅び去った。
イスラム教徒のターバンとキリスト教徒の羽兜が
圧死した兵士を漂わせ、血の滲む流れに混じりあった。
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Chocolate Desperate

2009年02月27日 01:29

砧公園の梅09の2

突然の出来事。
彼女は、何も言わずに出て行った
前触れもなく、跡形もなく
まったく、あの娘は消えてしまった
まるで怪奇小説の亡霊みたいに

そして、僕はひとりとりのこされた

それは、みぞれ混じりの雨の夜だった
ぐちゃぐちゃにふみにじられた
僕のハートのチョコレート
一生懸命だったけど
よかれと思ってしたけれど
彼女の親は許さなかった

僕のハートのチョコレート
オフィスの蛍光灯の陰惨さ

今夜は安い酒が苦い
まったく、笑うしかない結末さ
これでも僕は必死だった
でも、彼女には届かなかったけど
「サヨナラ」すら、言えなかったけど

ハロルドの憂鬱

2009年02月21日 19:08

シントラの景色その2
【チャイルドハロルドの巡礼】第1編より、27連-28連
    バイロン作  Shallot B.訳

27
寂しそうな面持ちで山を越えて行きながら
ハロルドはそんなふうに考えた。
景色は優しかったけど、空を巡る燕よりも落ち着かなくて、
すぐに逃げ出そうと思ったんだ。
ここに<瞑想>が時折彼を訪れ、
自覚ある<理性>が、狂った浮気に
浪費した青春を蔑みなさいと囁いたから、
しばらくのあいだ倫理的に考えることを学習したけど、
彼が<真実>を見れば見るほど、痛む眼が曇るのだった。

28
鞍へ! 鞍へ! 魂は宥められても
彼は立ち去る、平穏な景色から永遠に。
またしても彼は憂鬱症から躁へと目覚めるけれど、
今は酒や娼婦は求めない。
先へと彼は逃げ去るけれど、
旅路で彼の休まる目的地など、今はまだ定まらない。
苦役が彼の旅への渇きを潤して、または心が穏やかになり
賢い経験を学び取るまで、
移り変わる景色がたくさん彼を取り巻くことだろう。
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ダンテ『神曲 地獄篇』読了

2009年02月20日 12:38

神曲〈1〉地獄篇 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)神曲〈1〉地獄篇 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)
(2003/01)
ダンテ アリギエーリ

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漫画『One Piece』がジャンプ本誌でインペルダウン編に突入して数週間が経ちますが、第526話ではミノタウロスが出てきて、確信しました… ダンテ『神曲 地獄篇』のモチーフです。

実は最近まで寿岳文章訳『神曲 地獄篇』(集英社)を読んでおりましたので、どうもインペルダウンの建物そのものが旋回状になっているなぁと思いつつ。もっとも、ダンテの場合は漏斗型なので、インペルダウンとは逆向きなんですけどね。

第33歌のウゴリーノ伯爵(獄中で子供たちと共に餓死した男)のエピソードには釘付けになってしまいました。
第5歌では、有名なフランチェスカ・リミニのエピソードも挿入されていて、面白いです。

これを読んで、バイロニック・ヒーローたちやハムレットが地獄堕ちとして描かれ、ランボーが地獄堕ちだっていう認識で物語を描いていたのかが良くわかりました。はは~ん、確かに、みんな地獄堕ちだわ。

異教徒も愛欲者も無神論者も、みんな地獄堕ちですからね~。
中也が『山羊の歌』で羊になりたかったのも、なんとなく納得。

聖書とギリシア神話が絡み合った、まさに西洋的世界観の一端を垣間見ることができました。

ブレイクの絵が好きじゃない私は、読み終わってから河出のほうにすればよかったと後悔。

神曲 地獄篇 (河出文庫) (河出文庫)神曲 地獄篇 (河出文庫) (河出文庫)
(2008/11/04)
ダンテ

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岩波文庫『対訳 バイロン詩集』発売!

2009年02月19日 01:37

09年度金賞チョコ
……。初めてです。ジャンプとコミック以外で発売日に本を買ったのは(笑)
厳密に言えば、発売日の翌日ですが…

バイロン詩集―対訳 (岩波文庫 赤 216-4)
岩波文庫で『バイロン詩集』が発売されました!
勿論、未読ですが、これからじっくり読んで、そのうち(近いうちに)感想書きます。
ぱらぱらっとめくってみて、カッコイイ妄想が頭の中でできあがっちゃってる『海賊』のコンラッドとかマンフレッドとかハロルドとかの一人称が「わし」なのは、軽くショックでしたが(爆)、それはきっと編者の笠原順路先生の解釈&理解があるのだと思って有難く拝読致します。(通勤列車でも淡々と『ハロルド』を愛読なさっていたという先生のエピソードが思い出されます…)

地誌から叙情へ―イギリス・ロマン主義の源流をたどる

↑こちらの本も面白いです。
なんでもない辺鄙な土地から美しい詩が生まれるんだよ~ってことが論理立てて書かれています。いろんなイギリスの詩が垣間見られて面白いですよ☆
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『アナスタシア』鑑賞

2009年02月12日 02:21

アナスタシア [DVD]アナスタシア [DVD]
(2007/03/23)
メグ・ライアンジョン・キューザック

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仕事でほぼ使うことを心に決めつつ、一応見てから使うかどうか決めようと思って、先週からとってあったDVDをようやく見ました。悪評高い『アナスタシア』です。

実は12~3年前に一度見た記憶があるのですが、どういう話だったかさっぱり覚えていませんでした。確かにあの時は退屈した記憶がありました。でも、今回のとりあえずのひとこと感想は、「けっこう面白いじゃないか!!」です。

題材が近代ロシア史からとってきているのと、ミュージカルをもとにしているので、それがわかってないと「面白くない」と思いますが、逆にそれがわかっていれば、そこが「面白いところなんだよ」といえます。

近代ロシアが舞台であり、1920年代のパリの知識があれば、フレンチカンカンのロートレックの絵だとか、ロシアのバレエとか、そういったイメージは膨らみますから、ミュージカル仕立てになっている一場面も面白い。冒頭のペテルブルグの街頭シーンもミュージカル仕立てで、あるいはメアリーポピンズのディズニー映画や、ウエストサイド・ストーリーなんかが頭にあれば、「このアニメ、よくできてるなー!」となると思います。

アクション場面もけっこうイケてる。汽車の場面はアクション映画もビックリです~。けっこうハラハラしちゃいました(笑)

「ラスプーチンが弱すぎる」などの意見も多いようですが、個人的には死体が怨念で生き返っているので、もともと人間だったものが脆い肉体を魔力でつなぎとめているのだから、あれはあれでいい結末だと思います。むしろ、私としてはアーニャが(ディミトリの手ではなく)自分の手で復讐を遂げたことの重みのほうが大事だと思うし、人間の肉体の脆さと死の恐怖を伝えるラスプーチンの最期は、逆にそら恐ろしい。彼女が自分の意志をもって、自分の手で敵を討ったことは、ディズニーのお姫様たちよりもずっと現代的で積極的な女性として、好意的に受けとめられます。(『アラジン』のジャスミンや『ターザン』のジェーンもそうとう行動的だと思うけれど、アナスタシアほどではないような気がします。)

最後に。
これ、子供向けじゃないと思います(汗)
大人向けなアニメーション… ということで、報告おしまい!

なお、仕事で使うことが決定しましたので、これから『せりふ集』(台本)の予習を始めます!
アナスタシア (スクリーンプレイ・シリーズ―名作映画完全セリフ集)アナスタシア (スクリーンプレイ・シリーズ―名作映画完全セリフ集)
(1999/05)
スクリーンプレイ出版編集部

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断片(冬の夜)

2009年02月08日 22:06

砧公園の梅09の1
彼は寂れた駅のプラットフォームにいた。真っ暗な、むこうの街頭の明滅する光だけが頼りの町の、寂れた駅のプラットフォームに。
夜半はとっくに過ぎていた。
あのころ、自分の未来をはっきりと見ていたわけではない。けれど、いずれは連中との関係も薄れていき、ひとりぽっちで、この世に立っていかなくてはならないのだろうと思っていた。
今、彼はひとりで駅のプラットフォームに立っている。
年末の忙しなく冷たい空気が、指先を凍えさせる。どこからか、暖かな夕餉の匂いが漂ってくる。
帰省しそびれた中学生たちやら、家族連れやらが、彼の背後でどうでもいいことをぐちゃぐちゃと喋り続けている。
「俺は、」と思った。「あれから何をしてきたんだろう?」
少なくとも15年は経っているはずなのに、その間の記憶というものがもうまるでない。いくつもの恋、いくつもの少女たちの面影、そんなものがあったような気がするのに、もうまるで消滅してしまっていて、残っているものといえば、痺れ切って疲れた額に浮いている痛々しい皺ばっかりだ。ゴワゴワした面の皮が剥がれ落ちそうになるのを慌てて押さえつける。毎日毎日、接着剤でビッタリ貼り付けたような外面が、ひどくきしんでいる。この面の皮に、連中はどんな感情を抱くのだろうか? 苛立ちも怒りも、何もかも胸の奥に押し込めている。たまに、吐き出しそうになる。
「誰にも、」と彼は思った。「誰にも悟られてはいけない。」このゴワついた、乾涸びた蜜柑の皮のような面の下で、地獄の炎に焼き付けられて爛れてしまった頬を、誰にも悟られてはいけないのだ。
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春の海の夕暮れ

2009年02月07日 22:04

Mermaid's Dream
夕陽が木板に滲みる
潮風が切り傷を舐めている
春の海は

あぁ 記憶は失われて
私は何をしていたのか
時間の流れも 定かではない

遠く鯨の鳴き声がする
深く鮫の足音がする
絶壁が 深く 深く 遠くへと降りてゆく

砲弾が降り注ぎ
穴だらけの甲板に
潮水があらう ぼろぼろのカラヴェル船

仲間とともにありたかった he
妥協したくはなかった she
夢を見続けたかった he
負けたくなかった she
屈辱を知ってしまった he

いま ひとりぼっちになった彼女は歌う
やさしさをこめて
届かない金色の光に向かって
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