髑髏と向き合い、死を想う

2009年07月27日 01:21

Hamlet and Yorick

【チャイルドハロルドの巡礼】第2編より、5連-8連
    バイロン作  Shallot B.訳

5
そうでなけりゃ、亡くなった英雄の高貴なる墓を暴きたまえ。
彼は、遐く、孤独な岸辺に眠っている。
彼は斃れた、また斃れてゆく国の民どもがそのまわりで慟哭した。
しかし今や、多くの悲嘆に暮れる者のうち、誰ひとり泣かないし、
記録の伝えているように、半神が出現した場所で
英雄を崇拝する戦好きの連中が夜を徹することもない。
ばらばらに散らばった骨の山からあの髑髏をとりだしたまえ。
あれは御神の住まわれている<神殿>なのかね?
なぁに、ついには<蛆虫>殿でさえそのぼろぼろの墓を蔑むのさ!

6
壊れた門を、崩れた壁を、
侘しい部屋を、そしてうす汚れた入口を見たまえ。
そうさ、これがかつて<野心>の高殿、
<思想>の邸宅、<魂>の宮殿だったんだ。
ふたつの光りを失った眼球のない窩を通して、
<叡智>と<機知>の陽気な奥座敷を、
そして決して制御をかけさせなかった<熱情>の一群を、みるがいい。
聖者、賢者、あるいは哲人がかつて記したものをかきあつめたら、
この孤独な塔を、この家屋を、ひとは修復できるのだろうか? できやしない。

7
きみは巧く言ったもんだね、アテネの賢い息子、ソクラテスよ!
「われわれが知っているすべてのことは、何も知らないということだ。」
逃れられないものに対して、どうして怯まなきゃいけないのか?
誰もが煩悶を抱えているけれど、か弱きひとは
勝手に自分の頭で創り出した<邪悪>という悪夢に呻き苦しむ。
<偶然>や<運命>が最善だと宣言するものを追求したまえ。
<平和>が黄泉の国の川のほとりで僕たちを待っている。
そこでは、満腹の客には決して宴が強いられず、
<沈黙>が、いつも有難い<休息>の寝床を敷いてくれるんだ。

8
しかし、もしも最高位の聖職者が考えるように、
<魂>のくにが、あの暗黒の岸辺のむこうがわにあり、
狂ったように疑わしい教えをひどく自惚れた
古代ユダヤのサドカイ人の教義や、詭弁家たちの鼻をあかしてやれるなら、
現世の重荷を軽くしてくれたひとたちと一緒に天を讃えることが、
もはや聞くのを恐れなかった声を聞くことが、どれだけ快いことか!
拝火教の創始者や、霊魂輪廻を説いたピタゴラスや、
<正義>を説いたすべてのひと、
それぞれの強大な亡霊たちが視界へと現れるのを見たまえ!
[ 続きを読む ]

自恃だ!

2009年07月25日 21:32

4月の新宿09の15
木蔭
                        中原中也

神社の鳥居が光をうけて
楡の葉が小さく揺すれる
夏の昼の青々した木陰は
私の後悔を宥めてくれる

暗い後悔 いつまでも附纏ふ後悔
馬鹿々々しい破笑にみちた私の過去は
やがて涙つぽい晦瞑となり
やがて根強い疲労となつた

かくて今では朝から夜まで
忍従することのほかに生活を持たない
怨みもなく喪心したやうに
空を見上げる私の眼――

神社の鳥居が光をうけて
楡の葉が小さく揺すれる
夏の昼の青々した木陰は
私の後悔を宥めてくれる
[ 続きを読む ]

まひる

2009年07月25日 20:34

4月の新宿09の14

まっさらな 白布は そらにさらさら たなびいて
まっさらな 白布は そらにはたはた ひるがえり

照りつける 太陽の まっさらな光りに さらされて
照りつける 太陽は まっしろな光りを ときはなち

まっさおな 夏空に あふれるなみだ ひとすじ ふたすじ
まっさおな 夏空に かがやくひまわり ひとつ ふたつ

きえてゆく 陽炎の 焼けつく地面に とらわれて
きえてゆく 蜻蛉は まっくろな影を 刻みつけ

『川瀬巴水と吉田博 -日本の風景・世界の風景-』展@豊洲

2009年07月20日 20:42

090720_2014~001
東京は豊洲のららぽーとの中にあるこじんまりした美術館「平木浮世絵美術館 UKIYO-e TOKYO」へ行ってきました! 大好きな川瀬巴水の展覧会です☆

巴水の絵を見ると、いつもどことなく目頭が熱くなるような気持ちになるのですが、今回も、「大宮見沼川」の夜景(上写真)を目の前にしたとき、何故か取り戻せない何かを心に感じて、いつしか目頭が熱くなりました。
蛍の多く飛び交う闇夜。民家の優しい明かりがぼうっと灯り、その緩やかな橙色の灯りはそばを流れる小川の水面へと影を落としているのです。前景には飛び交う蛍。こちらもまた優しい刹那の灯りを人の目に映し出している。消えては灯り、灯っては消え… まるでひとのいのちのひとつひとつが紡がれているように。
背景にはそそり立つ大木が民家に大きな影を落とし、画面の中心に重石のようにのっかっている。これがないと、この絵はきっとふわついた、うすっぺらなものになってしまうにちがいない。
その大きな影と暗い空の闇は、絵葉書でこそはっきり見分けられるけれど、実際肉眼では一生懸命見ないと分からないのです。なんという暗闇! 静かに流れる川の声が、ちょろちょろと聞こえてくるようでした。

090720_2014~002
一方こちらは雪景色。
私が初めて見たときからどうしても中原中也の「生ひ立ちの歌」が頭から離れない作品が『雪に暮るる寺島村』ですが、今回もそれに匹敵する叙情を喚起させたのが、『高野山鐘楼』です。
きっと昭和の初期にはどこにでもあったかもしれない、懐かしいような風景。そこをひとり人の歩いた跡を辿ってゆく傘の姿。冷たい雪の中を、とぼとぼと歩き続けるそのひとの胸には、どんな思いがあったのでしょうか……。

中也や太宰の生きていた大正から昭和のころの風景。今ではすっかり失われてしまいました。失われたものは、かへってこない… 涙

と、ひとりりゅぅりゅぅとなみだ目になっていたら、相方が、「でもこの頃はきみの嫌いな男道がまかり通っていた時代だからね、きっときみは生きにくかったと思うけど(ニヤリプ)」傍でニヒルでした(汗)。sn

7月26日までの開催の模様。
是非ご覧あれです~!!ほっ

『日出処の天子』第5-7巻読了

2009年07月20日 20:07

日出処の天子 (第5巻) (白泉社文庫)
日出処の天子 (第6巻) (白泉社文庫)日出処の天子 (第6巻) (白泉社文庫)
(1994/03)
山岸 凉子

商品詳細を見る

日出処の天子 (第7巻) (白泉社文庫)日出処の天子 (第7巻) (白泉社文庫)
(1994/03)
山岸 凉子

商品詳細を見る


いゃ~…はっはっは…あせっ……濃い!! 濃厚!!

里中満知子『天上の虹』とか大和和紀『あさきゆめみし』とか池田理代子『ベルサイユのばら』と同じ気持ちで読み始めるとキツイです(笑)
……Shallotは基本純愛モノ大好きっ子なんで…。
昔先輩に止められたのが分かりました(激爆)

でも、厩戸の激しい愛の表現による「至らなさ」はなんだかグッとくるもんがありましたよ。
必死感は切々と伝わりました。毛人の「凡庸さ」の作者の解釈もよくわかりました。
確かに、あれだと馬子には及ばないでしょうね。

ただ、つっこみどころも満載だったわけですが…
いちおー自分の領域と認識しているのが640-646年頃なんで、7巻にオマケでついてた山背のエピソードにはちょっち異議もあり…。

ま、古代史なんて、結局闇の中の出来事ですから、いろんなひとがいろんな風に解釈してキャラクターを作り上げていくのはいいことだと思います! いろんな「入鹿」がいていいわけで。

ここまで来ると、池田理代子の『聖徳太子』を読みたくなってきました…。
漫画代が馬鹿んなんないよ。。。(汗)

感想。
最後5-7巻は特濃10.89っ…!!

<『日出処の天子』関連記事>
・ 『日出処の天子』第1巻感想
・ 『日出処の天子』第2巻感想
・ 『日出処の天子』第3巻感想
・ 『日出処の天子』第4巻感想

『日出処の天子』第4巻読了

2009年07月18日 14:16

日出処の天子 (第4巻) (白泉社文庫)
『日出処の天子』第4巻表紙

なんかもういろんな意味で拘泥してます…kao05
『日出処の天子』第4巻読了しました~ぐすん…

なんか… 毛人の「ダメっぷり」(=「いただけない美青年」)が露骨になってきました…><;
断然厩戸を応援しちゃうし。(笑)最初は超人的なサイコさんかなぁと思ってたけど、巻が進むにつれて、どんどん人間臭くなっていく彼。

130-156頁、厩戸が下等霊にとり憑かれる場面では、描かれた下等霊がブリューゲルの版画に出てくる悪魔の絵によく似ているなぁと思いました。結局毛人が追い払ってくれるけれど、その時の厩戸って、カワイイ!!ハート

で、助けられた後、厩戸に「自覚」という場面が訪れる…。

なんということだ/ これほどとは今の今まで気がづかなかった/ 自己(おのれ)が自己らしくあるためには/ いやわたしが人間らしくあるためには/ 毛人に補われねばならぬというのか!/ わたしの理性や感情をもはるかに越えて/ もっと奥深い根源的なところで必要としている鍵は毛人だというのか!?/ 人ひとりが完全であるために/ 他の人間をこれほど欲さなければならないというのはどういうことだ/ わたしという人間はそれほどまで欠落した部分を持って生まれたのか/ いやそれよりもなにより/ もっと恐ろしいのは/ 毛人にとって私は…[…]必要欠くべからざる人間ではない!」(175-180頁)

なんか、…><;
つまんない男にひっかかってしまったときの絶望感…プライドの高い厩戸ならではの感情。悔しいでしょうねぇ…><;

ラストの雨乞いのシーンでも、布都姫が雨乞い失敗して、毛人が馬鹿正直に庇ったりするから、厩戸が弁護して、政敵の喧嘩を買って窮地に立って、…結局厩戸は雨を呼ぶけれど、311頁の厩戸の涙は、なんだか本当に切ないです~うぁぁん

<『日出処の天子』関連記事>
・ 『日出処の天子』第1巻感想
・ 『日出処の天子』第2巻感想
・ 『日出処の天子』第3巻感想

『日出処の天子』第3巻読了

2009年07月17日 12:23

日出処の天子 (第3巻) (白泉社文庫)日出処の天子 (第3巻) (白泉社文庫)
(1994/03)
山岸 凉子

商品詳細を見る


動静で言えば、どちらかというと静の展開を物語る3巻を読了しました。

平素どうしても若い男の子たちに接触する機会も多い(もちろん女の子にも多いですが)私から見て、「いただけない美青年」(=ある意味男らしい?)を色濃く出している毛人さんにつっこみを入れたくなるシーンも多かったです(笑)。男の子って、そうよね(爆)!

シーンでは99-111頁の夜刀の池の一幕がとても美しいです。
冬の夕映えに輝く池のそばで、(2巻のラストでこじれた毛人と厩戸の)関係を修復しようと試みる毛人につれない厩戸。謝罪する毛人に(たぶんどうしていいかわかんなくなって)冬の池に飛びこむ厩戸… けっこうページ数あるのに、この間の厩戸さんのセリフは「毛人」「はなせ/ なんでもない」だけ…。無言劇に近いかもね。

で、毛人の恋の相手の石上斎宮の布都姫登場(218頁)。
なんかね、厩戸が痛々しい…涙
ラストの女装は悲しみと憎悪の表れのような気がします…

<『日出処の天子』関連記事>
・ 『日出処の天子』第1巻感想
・ 『日出処の天子』第2巻感想

『日出処の天子』第2巻読了

2009年07月16日 12:22

日出処の天子 (第2巻) (白泉社文庫)日出処の天子 (第2巻) (白泉社文庫)
(1994/03)
山岸 凉子

商品詳細を見る


徐々に作品の世界観に浸かり始めています(笑)
『日出処の天子』第2巻読了しました☆

この巻は、587年の蘇我VS反蘇我(主に物部)の戦を背景に進められます。
厩戸くん14歳(爆笑)。(←なぜ爆笑かは見たらわかります/汗)
年齢確認するとなおさら「えー(笑)」ですねkao04

毛人の甘っちょろさ=ナイスガイという等式が… 
2巻ではまだ厩戸くんと毛人のやり取りがそれほど痛々しくはないですね。
ただ、美しいなぁと思ったのは、250-252頁の、戦争を前にした厩戸のセリフ&絵。

ああ…崩壊してゆく/ 生命(いのち)の炎(ほむら)が散ってゆくのが見える/ いくつもいくつも消えてゆく…/ いつも感じるこの気分はなんなのだろう…/ 快感なのか……/ 嫌悪なのか……/ 早く消えきってしまえ/ 蒼々たる燐光の飛び散る様などもう見たくない/ ほら仏が通り過ぎてゆく/ 命の截片が足元に紛々と散り敷かれているというのに/ 声なく蹋みゆき寂情として通り過ぎてゆく

直前の守屋との対峙での彼のセリフ(245頁)と対照的なだけに、よりこのセリフが際立ち、同時に彼の内面の悲しみも浮きだっているように見えます。

前半の穴穂部王子をやっつけるエピソードは、なんだか厩戸が可哀想になりました…なぜでしょうね?

<『日出処の天子』関連記事>
『日出処の天子』第1巻感想

ひとは空へと眼を向ける

2009年07月12日 20:21

ミネルヴァさんとミューズさんたち
*STELLA, Jacques (b. 1596, Lyon, d. 1657, Paris) Minerva and the Muses(1640-45)、Oil on canvas, 116x162 cm、Musée du Louvre, Paris

【チャイルドハロルドの巡礼】第2編より、1連-4連
    バイロン作  Shallot B.訳

1
さぁ、青い瞳をした天の処女(おとめ)よ! しかし、ああ、
おまえはこの世のたったひとつの歌でさえ決して与えてはくれなかった。
知恵の女神よ! ここギリシアのアテネにはおまえの神殿があったのだ。
そして今も存在している。<戦争>や、なにもかもをめちゃめちゃにする炎、
そしておまえへの崇拝に消えろと命じた歳月などにもかかわらず。
しかし、刀剣よりも、炎よりも、のろのろ過ぎ行く歳月よりも悪いのは、
おまえとおまえの信者たちの思いが洗練された胸に授ける聖なる光を
まったく感じなかった者どもによる
恐怖の王権と陰惨な支配なのだ。

2
いにしえよりいる者よ! 畏れ多いアテナよ! 一体どこに、
おまえを信じる心根の堂々とした立派な勇者がいるのだろうか?
逝っちまった――過去の幻影を抜けて煌きながら。
<栄光>のゴールを目指す競走で先頭をきり、
勝ち、そして消えちまった――これで終わりか?
こどものおはなし、一炊の夢!
<戦士>の武器や<賢者>の肩帯を求めても無駄だ。
朽ちゆく塔の上高く、権力の影が
歳月の靄で薄暗く翳り、陰気な様相で飛び回る。

3
<暁>の息子よ! ここへ来るがいい!
来るんだ――だがあそこの無防備な骨壷を苛まないでくれ。
ここを見るがいい――一国の墳墓を!
もはや篝の灯らぬ社の数々、神々の住処を。
神々でさえ屈しなければならない――宗教はかわるがわる。
かつてはジュピターの、そして今はマホメットの時代。
ほかの宗教は別の時代に隆盛するだろう、ひとに
虚しく香炉を掲げ、その犠牲者の血を見るまで。
可哀想な<猜疑>と<死>の子は、一縷の望みを葦に託す。

4
大地に縛りつけられて、ひとは空へと眼(まなこ)を向ける――
いま生きているとわかるだけで、それでいいじゃありませんか、
あわれなものよ! たとえこの世でなくとも、天と交われるならどこでも、
いちど生を受けたのに、2度も生きたいと願い、
どこへ行くのか意にも介さず、見ず知らずのところへと行きたいと願うとは、
これが有難くも賜わった恩恵なのか?
それでもなお、おまえは未来の<歓喜>と<悲嘆>を夢にみるつもりか?
飛び去るまえに、むこうの灰燼を見て考えなさい。
あの小さな骨壷は、夥しいほどの説法よりもものを語っているのだよ。
[ 続きを読む ]

『日出処の天子』第1巻読了

2009年07月11日 23:18

日出処の天子 (第1巻) (白泉社文庫)日出処の天子 (第1巻) (白泉社文庫)
(1994/03)
山岸 凉子

商品詳細を見る


なんだか無性に漫画が読みたくなって、ふらり本屋さんへGO。
でも、いざ何を買ったらいいかなんて難しい…。 そこで、「やっぱ漫画としての名作、なおかつ飛鳥モノがいいよね~」とひとりつぶやきながら、文庫漫画のコーナーへ。

高校時代に、先輩が教えてくれた漫画のひとつで、タイトルだけは知っていたのですが、全然これまで読まないままになっていた、厩戸皇子の物語。実は、厩戸&推古女帝はあんまり興味がなく、蘇我大好きだけど、馬子はあんまり…(むしろ相方のほうが馬子大好きで…)。でも、相方のおかげで馬子のイメージは40~50代のダンディでやり手なおじさまを想定…。

嗚呼! 見事に裏切られましたヨ…(汗)
でも、けっこー政局を厩戸を絡めてスリリングに描いている辺りは面白い。

……この漫画、1巻からいろいろぶっとばしてんなーと思いましたが、いかんせん毛人(蝦夷)がイケメンの素敵美青年すぎるだろー…(笑)この夏かけて、最後まで読破する予定。

個人的な厩戸のイメージは、細面のお人よしのインテリ&斑鳩引きこもりくんって感じなんだけども、いやぁ、すげーや…エスパー、サイコさんじゃぁん…。画面が美しいので見とれてしまいます☆

さて2巻はどうなるのかしら。
ちょっと楽しみです☆

馬場あき子『鬼の研究』読了

2009年07月04日 21:49

4月の新宿09の13

鬼の研究 (ちくま文庫)

凝り性の私が、『ぬらりひょんの孫』の牛鬼にハマって、それでおしまいのわけがない…。先月の中ごろ、神保町の三省堂書店をふらふらしていたときに、思わず即買いしてしまいましたじーっ『鬼の研究』読了しました☆

ちょっとこの本はすごいです。
何度もあちこちで再版されてきたのもうなづけます。

牛頭鬼と馬頭鬼のことも、一つ目のことも、天狗のことも、一通り網羅されているばかりではなかったです。

最初に興味を惹かれたのは、斉明天皇崩御のときに朝倉山に出た傘をかぶった鬼のこと。
このエピソード自体は勿論知っていましたが、この鬼のことを土着の人々(山に住む先住民族)と読み解くのは目から鱗でした。

また、(浅学のために能のことはあまりよく知りませんが)「黒塚」のエピソードは美しすぎます。

[…]境涯的詠歌は、当然のことながら華麗な過去の栄華へ、あるいは婀娜たる昔人の面影へと回想の糸を手繰りはじめるのである。<黒塚の女>ももちろんそうした経路をたどらざるをえない。回想は甘美で、賀茂の祭や日蔭の糸の冠、糸毛の車、糸桜、夕顔の宿、花すすき、待つ宵、秋月、とくりひろげられ、糸づくしのことばのほぐれるままに女の過去がほぐれ、また紡がれてゆく。それらの華麗な物語りの背後には、一枚の扉にへだてられて、膿血したたる閨があり、腐爛した膚は臭気を放つという男の屍が折り重なっているのである。それは、現実に殺害した男の肉体というような猟奇的なものではなく、女の、傷つけ傷つけられた情念の贄である。(261頁より抜粋。)

ペローの「青髭」のような空間配置で、背後に異性の躯の山があるのは同じですが、まったく比べ物にならないほどの象徴読解です。「猟奇的なものではなく」永遠に孤独を彷徨う鬼としての人間は、むしろアン・ライスの『ヴァンパイア・レスタト』のレスタトが見た孤立した城に封じ込められた死体の山のような印象を受けます。

もうひとつ、山姥の哲学。

[…]たしかに、山を拠点として生活を営むという現実を認める以外には、それを鬼といわれようが何と呼ばれようが、関係ないのが山姥なのである。まったく世俗・世評と隔絶された独自の世界に、独自の世界観を育てつつ生きてきた人々なのであった。[…]山姥のもつ世界観、山姥のもつ哲学は、したがって、世俗の塵にまみれつつそこよりの脱出と回生を希った悲憤の般若とは、まったくちがう。山姥はながい時間のなかで、ひとつひとつ、生きることに不必要なものを理念のなかから捨て去ってゆく。[…]そこにはかならずや自然と一体になった悟りの世界などがあるのであろうと。[…]善もなく、悪もない世界、いっさいが澄み切ってしまった山の空気や、巌や、植物の発する清冽な香りだけの世界、それが山姥の世界なのだと。(282-283頁より抜粋。)

以前見たやなぎみわの写真に、森の中でひとり恍惚としながらも琴をかきならす老婆の姿を写したものがありました。その老婆の姿と、おそろしいほどぴったりとしたイメージが浮かびました。イギリスの魔女にも通じるものがあるかもしれません。

牛鬼の漂わせている哀愁がことさらに加速していくような感じを覚えながら、もうなんだか鬼の世界がほんとうに美しい自然のなかに在るのね、と思うと、今では日本全国津々浦々まで道路や民家が触手を伸ばしている現在、生きにくくなっているのだろうなぁと切なくなりました。

傘がない

2009年07月03日 23:06



歌詞もいいです~

最近かなり疲労困憊で、更新が滞りました…。
気づけば7月…。

今週はアリナミン(錠剤)を服用してもぐったりしている、なんとか仕事だけはこなせたけど、帰りの道を歩く姿がまるで徘徊しているおばあちゃんという状態のまま木曜日が到来し、このままでは多分過労で倒れるだろうなぁという限界点が見えてしまったため、やむなく金曜日の午前中はフランス語をお休みさせていただいて寝ました。。。

スケジュール調整&管理にここまで失敗したのは初めて。
反省してます~

雨の中、傘を持たなかった夜が2、3日あったので、この歌or中島みゆき「君と空のあいだに」を歌いながら帰ってきました。

…というわけで、フランス語の先生には本当に申し訳なかったのですが、夕べ風邪薬を飲んで、午前中よ~く眠ったら、少し快復。来週はちゃんと予習もばっちりして、体調もばっちりにして伺いたいと思います~sn

明日、最近読み終わった本のレビューをひとつ書きます!


Articles