しあわせの王子(1)

2011年10月31日 17:38

【しあわせの王子】 (冒頭)
   オスカー・ワイルド 作
   Shallot B.訳

 街を見下ろせるほど高く、高い円柱のうえに、しあわせの王子の像が立っていました。
 良質な金の薄い金箔で前身を覆われていましたし、眼には輝くふたつのサファイアが嵌め込まれ、剣の柄には赤く大きなルビーが輝いていました。
 王子は街の人々からとても讃えられていました。「風見鶏のように美しい」と市議のひとりが言いました。彼は芸術的趣向のある者なのだという風評を得たかったからです。しかし、「あいにくそれほど役には立たないがね」と、付け加えました。というのも、人々に「この市議は実利に疎い」と思われることがこわかったからです。実際彼は滅法実利には疎かったのでした。
 お月様が欲しいと言って泣いている子供にむかって、「どうしてしあわせの王子様みたいにいられないの? 王子様は何かを欲しいなんて夢にも思わないのよ」と良識ある母親が言いました。
 「この世にとてもしあわせなひとがいるなんて、嬉しいこった」と、素晴らしい彫像を見つめながら、あらゆる望みを失った男が呟きました。
 眩しいほどに緋色のマントを着て、清潔な白いエプロンをした孤児たちが、聖堂から出てくるときに言いました。「しあわせの王子様は天使みたいだね。」
 すると、数学の先生が言いました。「どうしてそんなことが分かるんだね。天使なんて見たこともないのに。」
 「ああ! でも、僕、見たことがあります。夢のなかで」と、その子は言いました。すると、数学の先生は顔をしかめ、とても厳しい表情になりました。というのも、子供たちが夢見ることを良しとしなかったからです。



『しあわせの王子』(2)
『しあわせの王子』(3)

わが魂は暗い(orココロが折れた)

2011年10月23日 17:42

【わが魂は暗い】
     バイロン 作
     Shallot B.訳

1
わが魂(こころ)は暗い――おお! 早く竪琴を奏でてくれ
でないと聞くのも辛くなる
そして耳へと溶けこむ囁きを
その優しい指先から弾き出せ
この心臓(こころ)のうちに、希望への未練があれば
また、楽(がく)の音(ね)が引き出してくれるだろう
この眼のうちに、涙がそこへ潜んでいれば
また、流れ出して焼けつく脳髄を鎮めてくれるだろう

2
けれど、旋律は激しく深く沈んだものにしてくれ
はじめは喜びのしらべにしないでくれ
歌人(うたびと)よ、俺は泣かなくてはならないのだ
そうでなければ この重たい心臓は破れてしまう
それというのも 心臓が 永く 悲しみに育まれ
眠れぬ静寂(しじま)のうちに疼いてきたから
そしていまや 最悪を知り、すぐにも裂けてしまう運命
――そうでなければ歌に委ねる運命なのだ。
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花のさかりに死んだひとよ

2011年10月18日 21:32

【花のさかりに死んだひとよ】
   バイロン 作
   Shallot B.訳

1
おお! 花のさかりに死ぬなんて!
重たい石におまえを押しつぶさせはしない
 その塚には薔薇を這わせよう
 四季の初めに葉がひらくから――
そして野の糸杉にやさしい翳をつくらせて 揺らめかせよう

2
ときおり むこうをさらさら流れる青川のほとりで
<悲しみ>にうな垂れた頭をもたれさせ
途切れぬ夢で深い思いをめぐらせよう
 そしてぐずぐず立ち止まっては そっと歩ませよう――
 情深い哀れな者よ! まるでその歩みが亡き人を苛むのではないかと思うよう

3
去れよ! 涙は無意味と分かっているし、
 その死は苦悩をものともしないし、耳にも入らない
だから俺たちに文句を言うなというのか?
 嘆く者の嘆きを減らせというのか?
そして俺に忘れろと言うおまえ、
そのおまえだってやつれて、目が濡れているぜ。
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秋――哀歌

2011年10月15日 17:49

秋の風は

【秋――哀歌】
  P.B.シェリー 作
  Shallot B.訳


暖かい陽は翳り、冷たい風がすすり泣く。
裸の枝は溜め息をつき、蒼褪めた花々が萎えてゆく。
<歳(とし)>は死の臥所である大地につき、枯葉の布に巻かれて横たわる。
   来たれ、<月々>よ、去れ、
   霜月から皐月へと
   おまえの悲しい葬列をなして。
   死んで冷たくなった<歳>の
   棺に続け、
そして暗い影のように、墓のそばで目を瞠れ。


氷雨が降り、凍えた蟲は這い回る。
河がうねり、雷は弔いの音(ね)を轟かす。
<歳>のためにだ。陽気な燕たちは飛び去り、蜥蜴たちは自分の巣に戻る。
   来たれ、<月々>よ、去れ、
   白と黒と灰のいろに包まれて。
   光の妹たちを遊ばせておけ――
   さあ、死んで冷たくなった<歳>の
   棺に続け、
そして涙に涙を重ね、墓に緑を育むがいい。
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耀う星よ!

2011年10月15日 17:04

Bright Star

【耀う星よ!】
    ジョン・キーツ 作
    Shallot B.訳

耀う星よ! おまえのように揺るぎなく――
夜、み空に高く うら寂しく瞬いて
永遠(とわ)の目蓋を開いては
自然の摂理に忍従する隠者のように
この世の人の岸辺をあらう
清純な神酒の聖なる役目を負う水辺にうち寄せる波を見たり、
山々や野辺に柔らかに降り積もる
新しい雪を見たりするのではなく、――
否(いや)――さらに揺るぎなく、変わらずに、
美しい恋人の膨らんだ胸に頭をのせて、
永遠(とわ)に柔らかに高鳴るのを感じ、
永遠(とわ)に芳しい不安に眠れないまま、
ずっと、ずっと、優しい息づかいを聞いて、
そして永く生きていられたらいい――でなければ恍惚と死に向かえたらいい。
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