イニスフリーの湖島

2012年08月30日 22:22

【イニスフリーの湖島】(1892)
W.B.イェイツ作
Shallot B.訳

さあ 立ち上がってイニスフリーの島へ行こう、
そうして 土と小枝でできた、ほったて小屋を建てよう。
そこで僕は 豆の畝をここのつと、蜜蜂の巣を持とう、
そうして 蜂のうなる林間の空き地で 独り暮らそう。

そうして そこではなんぼか平穏だろう、だって平穏がゆっくりと滴るからさ、
蟋蟀が歌いかける朝の帳(とばり)から滴るからさ。
そこでは 真夜中がなべて微かな光、真昼は紫いろの燦光、
それから夕暮れはなべて鶸(ひわ)の羽。

さあ 立ち上がって行こう、だっていつも 昼夜を問わず、
岸辺にはひたひた音を立て、湖水が打ち寄せているじゃないか。
僕が路上や、灰色をした歩道の上に立っているときだって、
心の芯の奥深くから、僕はその音が聞こえてくるのさ。
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いにしえのヴェネチアを思う

2012年08月04日 20:25

Venice Monet

【チャイルドハロルドの巡礼】第4編より、1-4連
    バイロン作  Shallot B.訳

1
ヴェネチアの「嘆きの橋」に私は立った。
両側には、宮殿と監獄。
魔術師が杖を一振りして出したよう、私には
ヴェネチアの建物が波間から湧き出るのが見えた。
千年の歳月が煙る翼を広げ、私を包み、
いまわの<栄光>が遙かな昔日に微笑みかける。
そのころ、多くの属国が眼を向けたのは、
翼の生えた「獅子」の、大理石の大建築物の数々、
ヴェネチアは威厳をもってそこに構え、幾百の島々に君臨していた。

2
ヴェネチアは海の女神のようだ。わだつみから生まれたてで、
貴やかなしぐさで、遙か遠くに聳える塔のティアラをして立ち昇り、
海洋とその強国を支配する。
それが彼女だった。
娘たちは諸国からの略奪品から持参金を得て、
ヴェネチアの膝元には、
無尽蔵の<東洋>が眩い宝石を雨霰と降り注いだ。
彼女は紫衣を纏い、支配者たちが彼女の饗宴に列し、
己の威厳も増すものと考えた。

3
ヴェネチアではかつて聞かれた船頭のタッソーの歌の呼びかけは、もう聞かれず、
ただ歌なき船頭が静かに櫂をこぐだけ。
その宮殿は波打ち際へと崩れ落ち、
耳にも今では音楽が入ってくることは常ならない。
あのころは失われてしまったが、まだ<美>はここにいる。
国が滅び、業[わざ]が色褪せても、
<自然>は死なずに、かつてヴェネチアがどれほど高貴であったかを忘れはしない。
あらゆる祭の陽気な場所、
現世の仮装舞踏会、イタリアの祝祭!

4
しかし、我々には歴史や強大な権力を揮った肖像画の
長い回廊のなかで、その名が魔力を宿している。
その薄暗い姿は、ヴェネチア総督を失った街の、
消滅した統治に落胆している。
リアルト橋とともに朽ちることのない記念碑こそ我らのものだ。
シャイロック、ムーア人、そしてピエールは押し流されも掻き消されもしない。
[彼らこそ]アーチ橋の要石たちよ! 
我々にとっては、すべてが終わりを告げたとしても、
寂れた岸辺をにぎやかにするだろう。
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