コロセウムに寄せる瞑想⑦ (stzs.140-142)

2005年05月15日 00:28

僕の前には剣闘士が横たわっているのがわかる。
彼は手を支えにして倒れかかっている――その人間らしい表情は
死を受け入れている、だから苦痛をこらえて
やがて彼のうな垂れた頭が少しずつ沈んでゆく――
脇腹を潜り抜けて、最後の雫が深紅の傷口から
ゆっくりと零れ落ちながら、一つ一つ、
まるで降り始めた夕立のように、脈打ちながら落ちている。
そしてやがて彼の周りを闘技場がぐるぐる廻る――
彼は逝ってしまう、勝ってしまった残忍を讃える獣じみた歓声が
鳴り止んでしまうその前に。

彼はそれを聞いた、でも気にとめなかった――
彼の瞳はこころと共に、遠いところへ飛んでいた。
失われた人生も相手の命も全く顧みなかった。
遠いところはドナウの岸辺、粗末な家のあるところ、
彼の幼い子供たちが皆で遊んでいたところ。
ダキア人の妻のいたところ――彼、子供らの父親は
ローマの休みの娯楽のために惨に殺されたのだった――
彼の血は迸った――彼を死なせてしまうのか、
復讐もなく?――立ち上がれ、ゴートの人々よ、
おまえたちの怒りを満たしてやるがいい!

そしてここ、<謀殺>が血塗れの精気を吸い込んだところ、
そしてここ、ざわめく群衆が道を塞ぎ、
急流が曲がり彷徨うように、飛び跳ねる山の本流のように、
猛り狂い、不平をこぼしていたところ。
ここ、幾百万のローマ人の非難や賛美が、
群衆に嘲弄された人間の生死であったところ、
僕の声はいっぱいに響き渡る――そして星の仄かな光は
誰もいない闘技場へと降り注ぐ――押し潰された椅子――崩れた壁――
そして回廊、そこに僕の足音が不思議と大きく響くよう。
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