マンフレッドのコロセウム瞑想(第三幕第四場)

2005年07月16日 00:34

[マンフレッド]
星々は現れて、月は耀う山々の頂へと昇っている。
――美しいなぁ!
俺はまだ自然と見詰め合っているんだ、
だって夜は俺にとって
人間の顔よりも馴染み深い姿だったんだからね。
それからおぼろげで寂しげな美しさの星明りの影に、
俺はもうひとつの世界の言葉を学んだものさ。
俺はよく覚えているよ、若かったころに、
俺が彷徨っていたときに、――こんな夜には、
コロセウムの内側に立っていたよ、
壮麗なローマの主だった廃墟の真ん中に。
崩れた門に沿うように育った樹々は
紺碧の夜に暗く揺すれて、そうして星たちは
廃墟の裂け目の向こう側、きらきら瞬いていたもんだ。
遠くの方からタイバー河の水面を越えて、犬の叫び吠える声。
それから皇帝の宮殿の程近くに、聞こえてくるのは
梟の長い鳴き声さ。そしてそれを遮るように、
離れたところで哨兵が、気まぐれに歌う鼻歌が
優しい仄かな風に乗り、とぎれとぎれに聞こえてきたよ。
「時」が磨り減らしてできた裂け目の向こうに、
何本かの糸杉が地平線を示しているように見えたんだ、
だけど皇帝たちの住処に、音もない夜鳥たちの住処に、
ほんの眼と鼻の先に立ち並んでいたんだ。
壊れた胸壁を貫いて聳え立ち、
堂々たる炉床にその根を絡ませる樹々の真ん中で、
ツタは月桂樹が伸びようとしたその場所を
奪い去ってしまっているの――
そして剣闘士の血塗られた円形闘技場は建っている、
荒れ果てた完全さとなった崇高な残骸よ!
皇帝の私室やアウグストゥス帝時代のホールが
蒙昧とした砂塵となり大地へひれ伏しているのに。――
それからあなた、廻る廻る月よ、すべての上に輝いていたね、
武骨な廃墟の古びた厳粛さを穏やかにして、
それから元のとおりに、もう一度、
世紀の隔ての亀裂を埋めた、
そんなふうに拡がってゆく柔らな光を撒いていたよ。
まだ美しいものは美しいままにしておいて、
美しくないものは美しくさせながら、
その場所が信仰になってしまうまで、
そうして昔の偉人たちの静かな祈りで
こころが溢れてしまうまで!――
死んでも尚杓を持っている皇帝たち、
彼らはまだ墓から俺たちの魂を支配しているんだ。――
そんな夜だった! それにしても、
こんな時にこの記憶を呼び覚ましてしまうなんて妙だな。
だがまァ、思想自体、哀愁を帯びた軍装で、正装すべき時にこそ、
思想は突飛な逃避行をするなんてことはわかってたけどね。
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