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ひとはただ、愛だけをおもえばいい。

2008年03月31日 01:13

牢獄のサロメ

あぁ! あんたはあたしにキスさせてくれなかったね、ヨカナーン。いいわ! 今キスしてあげる。
熟れた果実に噛みつくように、あたしの歯で噛んでやる。
そう、あんたの口にキスしてやるわ、ヨカナーン。
そう言ったわね、あたし。そう言ったでしょう? あぁ! 今キスしてやるわよ。
でもどうしてあたしを見ないの、ヨカナーン? 
あんたの眼は、本当に怖くて、怒りと嘲りに満ちていたのに、今は閉ざされているわ。
どうして閉ざされているの? 目を開きなさいよ! 目蓋を上げて、ヨカナーン!
どうしてあたしを見ないの? あたしが怖いの? ヨカナーン。だからあたしを見ようとしないの?

それからあんたの舌だけど、毒を吐き散らす赤い蛇のようだったのに、もう動かない、
何も言わないのね、ヨカナーン、あたしに酷い毒を喰らわせた緋色の蝮だったのに。
それってヘンよね、そうでしょ? 赤い蝮がもう動かないなんてどうしてよ……? 
あんたはあたしに何も望まなかったわね、ヨカナーン。あんたはあたしを拒絶した。
あたしにむかって、悪態をついた。あんたはあたしを、このあたしを、
ヘロディアスの娘でユダヤの王女のサロメにむかって、売女だの尻軽だのと呼ばわった。
いいわ! ヨカナーン、あたしはまだ生きている、そしてあんたは、あんたは死んで、
あんたの頭はあたしのもの。あんたの頭はあたしの思い通りなのよ。
あたしはそれを犬やらお空の小鳥たちに投げつけてやれる。犬が喰い残したら、
お空の小鳥に食べさせてやるわ……。

あぁ、ヨカナーン、ヨカナーン、あんたはあたしが愛したたったひとりの人だった。
あたしにとっては、他の男なんてムカつくだけよ。
でもあんたは、あんたは美しかった!
あんたの体は銀の台座に据えられた象牙の柱だったのよ。
鳩と銀百合でいっぱいのお庭だったのよ。
象牙の盾で飾られた銀の塔だったのよ。
この世であんたの体ほど白いものなんてなかったわ。
この世であんたの髪ほど黒いものなんてなかったわ。
この世であんたの口ほど赤いものなんてなかったわ。
あんたの声は不思議な匂いを撒き散らす香炉だったのよ、
それからあんたがあたしを見たとき、あたしは不思議な音を聞いたの。

あぁ! どうしてあんたはあたしを見なかったの? ヨカナーン。
あんたはその手と呪いの後ろに、あんたの顔を隠してしまった。
あんたは目の上に神を見ようとする人の覆いをかぶせてしまったの。
そう、あんたは神を見たのよね、ヨカナーン、でもね、決してあたしを、あたしを見てはいなかった。
もしもあんたがあたしを見てたら、きっとあたしを愛したでしょう。
あたしはあんたを見てしまったのよ、ヨカナーン、そしてあんたを愛してしまった。
あぁ、どれだけあんたを愛したことか! あたしはまだあんたを愛してたのよ、ヨカナーン、
あんただけを愛していたの……

あたしはあんたの美しさに渇いてる、あんたの体に飢えている。
お酒も果実もあたしの欲を満たせない。
どうしてくれるのよ、ヨカナーン?
洪水も海も、あたしの熱をかき消せない。
あたしは王女、なのにあんたはあたしを嗤った。
あたしはバージンだった、そしてあんたがそれを奪った。
あたしは無垢だった、なのにあんたが血に火をつけた。
あぁ! ああ! どうしてあんたはあたしを見なかったのよ、ヨカナーン?
もしもあたしを見ていたら、あたしを愛したはずなのに。
あんたがあたしを愛しただろうなんて、あたしにはよくわかっているの。
だって、愛の神秘は死の神秘よりも偉大なはずなんですもの。

ひとは、ただ、愛だけを想えばいいのよ。

   (オスカー・ワイルド『サロメ』より)


前回の訳よりもthouの訳語(「あんた」)でサロメがヨハネを下に見ているように訳してみました。
それに伴い、サロメちゃんの一人称も「あたし」になりました。
この部分、ひとつなぎの台詞(長っ!)なのですが、これを精読して初めて、
サロメちゃんの純粋さというか、健気さというか、可愛らしさというか、気の毒というか、
彼女の悲しみ(=悲劇)が掴めたような気がします。
ヨハネくんは、確かに神様を見たけれど、サロメちゃんを見なかった。
だからこそ、彼の悲劇がそこに生じたわけですね…。
ワイルドが彼女に言わせた言葉を、こちらもしっかり受け止めねばなりますまい。

以下、原文です。


Ah! thou wouldst not suffer me to kiss thy mouth, Iokanaan. Well! I will kiss it now. I will bite it with my teeth as one bites a ripe fruit. Yes, I will kiss thy mouth, Iokanaan. I said it; did I not say it? I said it. Ah! I will kiss it now . . . . But wherefore dost thou not look at me, Iokanaan? Thine eyes that were so terrible, so full of rage and scorn, are shut now. Wherefore are they shut? Open thine eyes! Lift up thine eyelids, Iokanaan! Wherefore dost thou not look at me? Art thou afraid of me, Iokanaan, that thou wilt not look at me? . . . And thy tongue, that was like a red snake darting poison, it moves no more, it speaks no words, Iokanaan, that scarlet viper that spat its venom upon me. It is strange, is it not? How is it that the red viper stirs no longer?. . .Thou wouldst have none of me, Iokanaan. Thou rejectedst me. Thou didst speak evil words against me. Thou didst bear thyself toward me as to a harlot, as to a woman that is a wanton, to me, Salome, daughter of Herodias, Princess of Judæa! Well, I still live, but thou art dead, and thy head belongs to me. I can do with it what I will. I can throw it to the dogs and to the birds of the air. That which the dogs leave, the birds of the air shall devour . . . . Ah, Iokanaan, Iokanaan, thou wert the man that I loved alone among men! All other men were hateful to me. But thou wert beautiful! Thy body was a column of ivory set upon feet of silver. It was a garden full of doves and lilies of silver. It was a tower of silver decked with shields of ivory. There was nothing in the world so white as thy body. There was nothing in the world so black as thy hair. In the whole world there was nothing so red as thy mouth. Thy voice was a censer that scattered strange perfumes, and when I looked on thee I heard a strange music. Ah! wherefore didst thou not look at me, Iokanaan? With the cloak of thine hands, and with the cloak of thy blasphemies thou didst hide thy face. Thou didst put upon thine eyes the covering of him who would see his God. Well, thou hast seen thy God, Iokanaan, but me, me, thou didst never see. If thou hadst seen me thou hadst loved me. I saw thee, and I loved thee. Oh, how I loved thee! I love thee yet, Iokanaan. I love only thee . . . . I am athirst for thy beauty; I am hungry for thy body; and neither wine nor apples can appease my desire. What shall I do now, Iokanaan? Neither the floods nor the great waters can quench my passion. I was a princess, and thou didst scorn me. I was a virgin, and thou didst take my virginity from me. I was chaste, and thou didst fill my veins with fire . . . . Ah! ah! wherefore didst thou not look at me? If thou hadst looked at me thou hadst loved me. Well I know that thou wouldst have loved me, and the mystery of Love is greater than the mystery of Death. Love only should one consider.
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