ハロルドの餞別

2008年10月10日 20:30

奈良の三笠焼きの小鹿ちゃん

【チャイルドハロルドの巡礼】第1編より、13連挿入歌
    バイロン作  Shallot B.訳

「さよなら、さよなら!  故里の岸は消えてゆく
 青海原のむこうがわ。
夜風は嘆き、砕けた波は響き渡り、
  悲鳴をあげているのはカモメ。
彼方《あなた》の太陽 海へと沈み、
  僕らは彼の後を追う。
太陽と君に しばしのさよなら、
  故里の土よ、――おやすみ! さよなら!

「しばらく経てば、陽はまた昇り、
  朝に生を吹き込むだろう。
海と空とに敬礼する僕、
  故里の土にはままならない。
立派な屋敷は寂れてしまい、
  暖炉に火の気もありはしない。
壁には草がはびこって
  犬は門で吠え立てる。

「おいで、おいで、少年よ
どうしておまえは泣き叫ぶんだ?
波の怒りが怖いのかぃ、
  風に脅えているのかぃ?
瞳の涙を拭きなさい、
  船は速くて頑丈だ。
どんなに速い鷹であっても
  楽しく追い越せはしまいから。」

「風など嘆かせておけばいい、波などうねらせておけばいい。
  僕は波も風も恐れはしません。
でもハロルド様、びっくりなさらないでほしい、
  自分の心が悲しみに満ちているのです。
僕は愛する父と母とに
  別れを告げてまいりました。
海と波とを別にすれば、親しい者もありません、
  あなたと、――天の神様だけです。

「親父は本当に祝福してくれ、
  あまり嘆きもしませんでした。
けれど僕が帰ってくるまでは
  母はどれだけ嘆くんでしょうね。」
「もういい、もういい!
  おまえの目には涙が似合うぜ、
僕におまえの純心があれば、
  僕の眼も乾かないのに。」

「おいで、おいで、従僕よ、
  どうしてそんなに蒼褪めているの?
フランス兵が怖いのかぃ、
  風に震えているのかぃ?」――
「私が自分の命のために慄いているとお思いですか?
  ハロルド様、私はそんなに弱くはござらん。
けれども 傍にはいない妻を思うと
  いちずな頬が蒼褪めるのです。

「私の妻も息子たちも、湖の傍、
  お屋敷近くに住んでおります。
息子が父を呼んだなら、
  妻はどうして答えるでしょう?」――
「もういい、もういい、
  おまえの嘆きを否定はしまい。
けれど、軽やかな気分の僕は、
  さっさと離れて笑いたいんだ。」

「妻や恋人のうわべだけの嘆きを
  信じる奴がどこにいる?
ついさっきまで涙していた綺麗な碧い瞳を、
  新たな男が乾かすだろう。
過ぎた歓喜も迫る危難も
  僕はどちらも嘆かない。
僕のいちばん悲しいことは、
  涙を求めるものは何も残して来てはいないこと。

「今や僕はこの世にひとり
  広い広い海にひとり。
誰も僕を惜しまないのに、
  どうして他人を惜しむだろうか?
ひょっとすると、僕の犬はきゃんきゃん鳴いてるだろうけど、
  それもだれかが餌をやるまで。
僕が帰るずっと前に
  犬も僕に噛み付くようになるだろう。

泡立つ海を横切って、船よ、
  おまえとともに 疾駆する僕。
故里に戻るのでなけりゃ、
  どんな土地へ着いてもかまわない。
ようこそ、ようこそ、黝い波よ!
  波が眼から消え去るときには、
ようこそ、ようこそ、砂漠よ、洞窟よ!
  わが故里よ――さよなら!」


ハロルドくんの餞別を歌った歌です。
最近ちょっと、作品の中に挿入されている歌が気になります。
ことの起こりは『ハムレット』のオフィーリアと『オセロー』のデズデモーナなんですが……。
バイロンもハロルドのなかには色々歌を挟みこんでいるので、
次の論文はそのへんをまとめようかなぁ……。

この業界に対応するだけの頭が足りないので、書くだけでもやっとこさなのに…(汗)

ちょびちょびがむばります~

尚、原典は以下のとおりです~
読んでみてね☆


Adieu, adieu! my native shore
Fades o’er the waters blue;
The night-winds sigh, the breakers roar,
And shrieks the wild sea-mew.
Yon sun that sets upon the sea
We follow in his flight;
Farewell awhile to him and thee,
My Native Land - Good Night!

A few short hours, and he will rise
To give the morrow birth;
And I shall hail the main and skies,
But not my mother earth.
Deserted is my own good hall,
Its hearth is desolate;
Wild weeds are gathering on the wall,
My dog howls at the gate.

‘Come hither, hither, my little page:
Why dost thou weep and wail?
Or dost thou dread the billow’s rage,
Or tremble at the gale?
But dash the tear-drop from thine eye,
Our ship is swift and strong;
Our fleetest falcon scarce can fly
More merrily along.’

‘Let winds be shrill, let waves roll high,
I fear not wave nor wind;
Yet marvel not, Sir Childe, that I
Am sorrowful in mind;
For I have from my father gone,
A mother whom I love,
And have no friend, save these alone,
But thee - and One above.

‘My father blessed me fervently,
Yet did not much complain;
But sorely will my mother sigh
Till I come back again.’ -
‘Enough, enough, my little lad!
Such tears become thine eye;
If I thy guileless bosom had,
Mine own would not be dry.

‘Come hither, hither, my staunch yeoman,
Why dost thou look so pale?
Or dost thou dread a French foeman,
Or shiver at the gale?’ -
‘Deem’st thou I tremble for my life?
Sir Childe, I’m not so weak;
But thinking on an absent wife
Will blanch a faithful cheek.

‘My spouse and boys dwell near thy hall,
Along the bordering lake;
And when they on their father call,
What answer shall she make?’ -
‘Enough, enough, my yeoman good,
Thy grief let none gainsay;
But I, who am of lighter mood,
Will laugh to flee away.’

For who would trust the seeming sighs
Of wife or paramour?
Fresh feeres will dry the bright blue eyes
We late saw streaming o’er.
For pleasures past I do not grieve,
Nor perils gathering near;
My greatest grief is that I leave
No thing that claims a tear.

And now I’m in the world alone,
Upon the wide, wide sea;
But why should I for others groan,
When none will sigh for me?
Perchance my dog will whine in vain
Till fed by stranger hands;
But long ere I come back again
He’d tear me where he stands.

With thee, my bark, I’ll swiftly go
Athwart the foaming brine;
Nor care what land thou bear’st me to,
So not again to mine.
Welcome, welcome, ye dark blue waves!
And when you fail my sight,
Welcome, ye deserts, and ye caves!
My Native Land - Good Night!
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