イネスに

2009年05月31日 00:40

スペインの女性2

【チャイルドハロルドの巡礼】第1編より、84連挿入歌「イネスに」
    バイロン作  Shallot B.訳

イネスに

1.
いやだ、僕の陰鬱な額に微笑まないでくれ、
 ああ! 僕は微笑み返せないんだ。
しかし天よ、妨げよ、きみが泣くのを、
 たぶん虚しく泣くことを。

2.
そして青春の喜びを蝕むような、
どんな秘密裡の悲嘆に耐えられるのかをきみは訊くのか?
そしてきみでさえ宥められない痛みを、
 きみは虚しく知ろうとするのか?

3.
僕にいまの立場を厭わせ、
 僕が大切にしていたものからなにもかも捨てろと命じているのは、
愛じゃないし、憎しみでもないし、
 野卑な<野心>が失った栄誉でもない。

4.
それは僕が見聞きするものすべてから
 溢れ出す倦怠というやつさ。
美女も僕には喜びをもたらしはしない。
 きみの瞳だって僕をほとんど魅了しはしない。

5.
それは、伝説の<さまよえるユダヤ人>が耐えていた、
 除けられない終わりなきあの陰鬱さだ。
それはあの世を見渡すことなく、
 現世での憩いも望めない。

6.
追放者は誰でも己からは逃れられない。
 どこへでも、どんなにどんなに離れても、
まだ、まだ追いかけてくる、僕がどこにいようとも、
 人生を枯れさせるもの、<想念>という悪魔が。

7.
けれど他のひとは快楽に夢中になっているようで、
 僕の棄てるものをすべて味わっている。
あぁ! どうか彼らが夢に夢中で、
 せめて僕のように目覚めることがありませんように!

8.
たくさんの忌わしい思い出を秘め、
たくさんの地を潜り抜け、僕は行くんだ。
そして僕の慰めはただ、何が起ころうと、
 最悪を知ってしまったと分かっていることだ。

9.
最悪とは何か? いやだ、訊かないでくれ。
 どうかお願いだ、訊かないでくれ。
微笑んで、ひとの心の仮面をはがし、
 そこにある地獄を見ようなどとは思わないでくれ。


女性の名前宛の挿入歌だから、第3編のと同じだと思っていたら、全然趣が違ってビックリです☆
「地獄」が自分が想定している地獄の形と同じように出てきたので、背筋が寒くなりました。
マンフレッドの原型もちょっと垣間見た感じがあります。


TO INEZ.

1.
Nay, smile not at my sullen brow,
Alas! I cannot smile again:
Yet Heaven avert that ever thou
Shouldst weep, and haply weep in vain.

2.
And dost thou ask what secret woe
I bear, corroding joy and youth?
And wilt thou vainly seek to know
A pang even thou must fail to soothe?

3.
It is not love, it is not hate,
Nor low Ambition’s honours lost,
That bids me loathe my present state,
And fly from all I prized the most:

4.
It is that weariness which springs
From all I meet, or hear, or see:
To me no pleasure Beauty brings;
Thine eyes have scarce a charm for me.

5.
It is that settled, ceaseless gloom
The fabled Hebrew wanderer bore,
That will not look beyond the tomb,
But cannot hope for rest before.

6.
What exile from himself can flee?
To zones, though more and more remote,
Still, still pursues, where’er I be,
The blight of life - the Demon Thought.

7.
Yet others rapt in pleasure seem,
And taste of all that I forsake:
Oh! may they still of transport dream,
And ne’er, at least like me, awake!

8.
Through many a clime ’tis mine to go,
With many a retrospection curst;
And all my solace is to know,
Whate’er betides, I’ve known the worst.

9.
What is that worst? Nay, do not ask -
In pity from the search forbear:
Smile on - nor venture to unmask
Man’s heart, and view the hell that’s there.


sullen:(不きげんに)黙り込んだ, (生まれつき)むっつりした, 気むずかしい, 機嫌の悪そうな;〈動物・物が〉扱いにくい
again:返して, 応じて, 答えて
avert:〈不幸・災難・困った事態が〉起こるのを防ぐ[回避する]
corroding:〈金属などを〉腐食する((away))。〈人・性格などを〉徐々に悪くする, むしばむ;〈人・力などを〉徐々に弱らせる.
low:((古風またはおどけて))〈表現・行動・趣味などが〉下品[低級, 下劣]な, 卑しい, 〈人が〉教養のない, 粗野な
weariness:退屈、疲弊、飽和
settled:固定[確定]した, 定着した;落ち着いた
exile:追放者;亡命者;流罪人
rapt:((文))(…に)没頭している, 心を奪われた((in ...)).
transport:((受身))((文))…を(歓喜などで)夢中[有頂天]にする((with ...))
at least:せめて;((文修飾))いずれにしても, ともかく.
clime:土地
retrospection:[名][U][C]((形式))回想, 追想, 追憶, 過去の出来事[経験]の概観, 回顧
betides:((文))(他)〈事が〉…に起こる, の身にふりかかる
forbear:…を慎む, 差し控える, 思いとどまる, (じっと)こらえる((to do, doing))
venture:…を冒険的に試みる, 危険を冒して…する, …を大胆にもやってみる, 敢行する

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