<夜>の優しさのなかでの勇ましさ?

2010年02月21日 21:01



【チャイルドハロルドの巡礼】第2編より、70連-72連
    バイロン作  Shallot B.訳

70
寂しいルートラキは、弧を描き、入り江を形作る。
疲れた波が引き、安らかに光るところでは、
真夜中に、風が西からそっと囁き、
青く穏やかな海を、波立たせずに、そっと触れる。
すると、静かな湾の胸のうえ、緑なす丘の小森の葉群が頷く。
なんて(影の)焦茶色だ!
ここでハロルドは丁重に客人としてもてなされた。
また、彼はこの優美な光景に感動せずにはいられなかった、
<夜>のたおやかさから、たくさんの喜びをひとつひとつ拾えたからだ。

71
静かな岸辺に、篝火が赤々と燃え盛り、
宴は済んだ。赤いワインがさっさと回された。
驚きでぽかんとして、気を留めないひとなら、
あっけにとられて見つめただろう。
というのも、夜も真夜中を前にして、もっとも静かな刻限過ぎに、
この一群特有の宴が始まったからだ。
それぞれの闘士たちが己の刀を放り投げ、
手に手をとって、腕を組み、飛び跳ねながら、
野卑な哀悼歌を叫び、外套を着た連中は、長いこと踊っていた。

72
貴公子ハロルドは、少し離れて立っていた。
厭に感じず、その酒宴を見遣っていた。
野卑ではあるが、無邪気な喜びを厭わしくは思わなかった。
本当に、無骨だが見苦しくはない、連中の大歓喜は、
見るに耐えないものではなかった。
そして、炎が顔を照らすとき、
素早い動作、輝く黒い目が閃いた。
長いざんばら髪を腰帯にまで靡かせていた。
その間、声をそろえてこの歌を、半ば歌い、半ば叫び、歌ったのだ。

1.
鼓手よ! 鼓手よ! 遙かなおまえの警鼓が
望みを、戦の約束を猛者どもにやるのさ。
山の民よ、みんなこの音に立ち上がれ、
キマイラ族、イリュリア族、そして黒いスリ族よ!

2.
おお! 雪の襯衣と毛の外套に身を包む
黒いスリ族よりも勇ましいのは誰だ?
狼と鷹を野生の群に残し、岩を落ちる流れのように
奴らは原へと降りてくる。

3.
味方の過ちを決して許さんキマイラ族が
敵を生かしておくもんか。
正確なその銃口に、復讐を遂げさせてやったらいい。
敵の胸板ほど立派な的などあるもんか。

4.
マケドニアは無敵の種族を送り出す。
束の間、奴らは洞窟と狩猟をやめるんだ。
しかし連中の血色の襟布は
刀が鞘に納まり、戦いが済むそのまえに、もっと赤くなるだろう。

5.
それから、波打ち際の住人・パルガの海賊は
蒼白いフランク族に奴隷ってものを教えてやる。
浜辺に長いガレー船と櫂とをうち棄て、
岸辺の捕虜を、隠れ家に追う。

6.
俺ぁ富がもたらす喜びは要らん。
俺の刀は雑魚が買うもん勝ち取るぜ。
長くてきれいな髪をした、若い女を奪うのさ。
数え切れない乙女らの母親どもに涙を流させてやるんだ。

7.
俺ぁ若い女の綺麗な顔が大好きだ。
女の腕が俺をなだめる、女の歌がなだめてくれる。
綺麗な音の竪琴を、女の部屋から持ってこさせ、
女の親父の最期について、女と一緒に歌わせよう。

8.
プレヴェザ陥落の瞬間(とき)を思い出せ。
踏まれる奴の悲痛な叫び、踏み躙る奴の歓喜の大声。
俺らが燃した屋根瓦、俺らの分けた略奪品。
俺らの殺した金持ちや、俺らがとっといた美女を。

9.
俺ぁ慈悲を口にしない、俺ぁ恐怖を声にはしない。
大臣に仕えていた奴も知らないはずだ。
預言者さまの昔から、アリ・パシャのように輝く首領を
新月章は見てはいない。

10.
黒きムクタールはドナウ河に馳せ参じる。
黄色い髪の邪宗徒どもに、畏れをもってその偉さ見せつけてやれ。
騎兵どもが川岸の血の海を駆けてくるとき、
ロシア兵から逃れられる奴ぁほとんどいない。

11.
太刀持よ! おまえの首領の三日月刀を抜け。
鼓手よ! おまえの警鼓が<戦>の約束を与えんだ。
<山々>よ、俺らが岸へと降りてくるのを見ろ、
そして勝者としての俺たちをみろ、そうでなければ、見なくていいぜ!


けっこうこの72連の挿入歌、「責め苛まれる美女」、「倒錯の偶像」のオーラがいっぱいで、けっこう…(以下略)。

70連の美しさは、バイロンじゃないと書けないよねぇ…!
本当に…!

とりあえず、今日の作業はこれでおしまい。8時間以上に渡る(パソコンを通じての)バイロンとの格闘の結果、昨日美容室で癒してもらった肩凝りは再び悪化の模様…。ううむ。なかなかスリ族のように、強い体にはなれませんなぁ…。




LXX.

Where lone Utraikey forms its circling cove,
And weary waves retire to gleam at rest,
How brown the foliage of the green hill’s grove,
Nodding at midnight o’er the calm bay’s breast,
As winds come lightly whispering from the West,
Kissing, not ruffling, the blue deep’s serene:―
Here Harold was received a welcome guest;
Nor did he pass unmoved the gentle scene,
For many a joy could he from Night’s soft presence glean.

Utraikey:現在のルートラキ。ギリシアの村。温泉があり、海に面している。
cove:小湾, 入り江
brown:日焼けした;〈人が〉褐色の肌の
ruffling:〈水面などを〉波だたせる;…をしわにする、〈人・心を〉怒らせる, かき乱す((up))
serene:((古))穏やかな海, 晴れ渡った空
glean:(自)落ち穂拾いをする;徐々に集める;(…から)(こつこつと)学ぶ((from ...)).


LXXI.

On the smooth shore the night-fires brightly blazed,
The feast was done, the red wine circling fast,
And he that unawares had there ygazed
With gaping wonderment had stared aghast;
For ere night’s midmost, stillest hour was past,
The native revels of the troop began;
Each Palikar his sabre from him cast,
And bounding hand in hand, man linked to man,
Yelling their uncouth dirge, long danced the kirtled clan.

ygaze:=gaze
gape:(驚いたりして)(…を)口をぽかんとあけて見る((at ...));大口をあける;((古風))あくびをする.
wonderment:驚き, 驚嘆, 驚異
aghast:[形]((叙述))(…に)あっけにとられた;度を失った;肝をつぶした, 仰天した, たまげた((at ..., to do))
midmost:[形]まんまん中の[にある];中心部にある
revel:((~s))((文))底抜け[お祭り]騒ぎ;(ダンスや仮装舞踏会などを伴った)大騒ぎの宴
troop:(人・物の)群れ, 集まり, 団, 隊, (鳥・動物の)一群((of ...))
Palikar:ギリシアやアルバニアの軍事的首領の統率する部隊の構成員のこと。とくに、1821年から1827年までのギリシア独立戦争におけるものを言う。
sabre:(特に騎兵隊の)サーベル, 軍刀
cast:…を(勢いよく)投げる, ほうる
bound:ぴょんぴょん飛んでいく;跳ねる, 飛び上がる
uncouth:〈人・言動などが〉ぎこちない, ぶざまな, 無礼な, 粗野な;〈場所が〉人跡まれな
dirge:葬送歌[曲];哀悼歌;挽歌(ばんか);悲歌、(歌による)埋葬式, 葬儀
kirtled:((古))(中世の)ガウン、外衣
clan:仲間, 連中, 徒党, 一味

LXXII.

Childe Harold at a little distance stood,
And viewed, but not displeased, the revelrie,
Nor hated harmless mirth, however rude:
In sooth, it was no vulgar sight to see
Their barbarous, yet their not indecent, glee;
And, as the flames along their faces gleamed,
Their gestures nimble, dark eyes flashing free,
The long wild locks that to their girdles streamed,
While thus in concert they this lay half sang, half screamed:-

revelrie:[U][C]((しばしば-riesで単数扱い))お祭り騷ぎ;ばか騷ぎの酒宴
mirth:[U]((文))歓喜;陽気;浮かれ騒ぎ;笑い. ▼ひとりでにこみ上げてくるうれしさや陽気な気分
In sooth:本当に、実際
indecent:見苦しい, 不体裁な、無作法な, 下品な
glee:[U]大喜び, 歓喜
lock:頭髪の房(ふさ), (一房の)巻き毛, ほつれ髪;((~s))((詩))頭髪(hair)
girdles:ベルト, 飾り帯
in concert:いっせいに、声をそろえて
lay:(歌うための)短い物語詩, 詩;歌謡




1.
Tambourgi! Tambourgi! thy ’larum afar
Gives hope to the valiant, and promise of war;
All the Sons of the mountains arise at the note,
Chimariot, Illyrian, and dark Suliote!

2.
Oh! who is more brave than a dark Suliote,
In his snowy camese and his shaggy capote?
To the wolf and the vulture he leaves his wild flock,
And descends to the plain like the stream from the rock.

3.
Shall the sons of Chimari, who never forgive
The fault of a friend, bid an enemy live?
Let those guns so unerring such vengeance forego?
What mark is so fair as the breast of a foe?

4.
Macedonia sends forth her invincible race;
For a time they abandon the cave and the chase:
But those scarves of blood-red shall be redder, before
The sabre is sheathed and the battle is o’er.

5.
Then the pirates of Parga that dwell by the waves,
And teach the pale Franks what it is to be slaves,
Shall leave on the beach the long galley and oar,
And track to his covert the captive on shore.

6.
I ask not the pleasure that riches supply,
My sabre shall win what the feeble must buy:
Shall win the young bride with her long flowing hair,
And many a maid from her mother shall tear.

7.
I love the fair face of the maid in her youth;
Her caresses shall lull me, her music shall soothe:
Let her bring from her chamber the many-toned lyre,
And sing us a song on the fall of her Sire.

8.
Remember the moment when Previsa fell,
The shrieks of the conquered, the conquerors’ yell;
The roofs that we fired, and the plunder we shared,
The wealthy we slaughtered, the lovely we spared.

9.
I talk not of mercy, I talk not of fear;
He neither must know who would serve the Vizier;
Since the days of our prophet, the crescent ne’er saw
A chief ever glorious like Ali Pasha.

10.
Dark Muchtar his son to the Danube is sped,
Let the yellow-haired Giaours view his horsetail with dread;
When his Delhis come dashing in blood o’er the banks,
How few shall escape from the Muscovite ranks!

11.
Selictar! unsheath then our chief’s scimitar;
Tambourgi! thy ’larum gives promise of War.
Ye Mountains, that see us descend to the shore,
Shall view us as Victors, or view us no more!

Tambourgi:=drummer.
larum:=battle-cry。敵の進軍を告げる知らせ。
valiant:〈人・行為が〉勇敢な, 雄々しい;英雄的な
Chimariot:キマイラ山脈に住む人々のこと。
Illyrian:イリュリア人
Suliote:スリ人
camese:イスラムやアラブの人々の着る白いシャツ。
shaggy:〈布地が〉けば立った, 毛足の長い
capote:フードつきの長い外套(がいとう);闘牛士の肩マント
unerring:誤りを犯さない, 的をはずれない, 寸分の違いもない, 的確な.
forego:(他)(自)(…に)先行する.
invincible:征服できない, 無敵の
For a time:しばらく、少しの間
sheathe:〈刀剣類を〉さやに収める
Parga:ギリシアのスリに近い港町。現在、ビーチも街も美しいイピロス屈指のリゾート。
lull:(歌ったり, 抱いてゆすったり, あやして)〈小児を〉寝かしつける;〈振動・揺れ・音などが人を〉落ち着かせ眠くさせる((to, into ...))
Previsa:ギリシアの都市。現在のプレヴェザ県。オスマン帝国時代のほとんどは、この地域はヤニナ州(ヴィライェト)の一部であった。ギリシャ独立戦争の時には数々の反乱がこの地域で発生した。
Vizier:((もと))(イスラム教国の)高官, 大臣
Muchtar:アリ・パシャの息子ムクタール。
Danube:((the ~))ドナウ川, ダニューブ川:ドイツ南西部に源を発し黒海に注ぐヨーロッパ第二の川.
Giaours:((トルコ語))不信者(特にイスラム教徒によるキリスト教徒の蔑称), 異端者, 非イスラム教徒.
Delhis:騎兵
Muscovite:モスクワ(Moscow)人, モスクワっ子;モスクワ大公国の人[住民]. ((古))ロシア人.
the Muscovite ranks:=Russian soldiers
Selictar:トルコの首領の刀を持ち運ぶ人。
scimitar:三日月刀:アラビア・ペルシア起源の片刃刀

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