カトル・ブラの戦い

2010年08月15日 19:54

あるお部屋の珍しい花

【チャイルドハロルドの巡礼】第3編より、21連-28連
    バイロン作  Shallot B.訳

31.
夜にはお祭り騒ぎの音が聞こえた。
ベルギーの首都には国の美女や騎士が集い、
美しい女性たちや勇敢な男性たちを
その灯りは煌々と照らし出していた。
幾千もの心が幸せに高鳴っていた。
楽の音が快く高まると
流し目を愛するひとに送り、その人もまた送り返し、
すべては婚礼の鐘のように陽気にはこんだ。
でも 聞いて! 耳を澄まして! 低い音が高まる弔鐘のように響いている。

22.
聞いたか? いや、風の音さ。
でなきゃ石畳を走る馬車の音さ。
踊り続けよう! 喜び全開で!
朝まで眠るな、<若さ>と<愉快>の出会い、
輝く<時間>が足早に去っていくのを追うとき――
だが聞け! まるで雲にこだまするように
あの重たい音がいま一度裂け響く。
そしてだんだんと近づいて――はっきりと――前よりも酷く!
戦闘だ! 戦闘だ! あれは――ああ――開戦の砲火だ!

23.
あの大きな広間の窓のついた壁龕のなかに、
運の尽きたブルンズウィック将軍が座っていた。
彼はあの音を祭りのただ中で最初に聞いた。
そして<死>を予感する耳でその音色をとらえたのだ。
そして「近い」というと連中は笑ったが
彼の心臓はその轟きを実によく知っていた。
それは、血塗られた棺に父親を横たえ、
血だけが滾る復讐心を抑えられたものだった。
彼は戦場に馳せ参じ、最前線で戦って、斃れたのだ。

24.
ああ! たちどころに忙しなくいったりきたり――
涙溢れ、悲嘆にうち震え、
少し前まではその美しさを褒められて赤く染まっていたのに
今ではまったく蒼褪めてしまっている。――
突然の別れ、しかも若い心臓から生命を圧搾するような別れ、そして
二度と繰り返せないかもしれない、窒息するような溜息。
甘美な夜のあとにそんな恐ろしい朝が来るのだから、
金輪際お互いを見つめ合えるなんて、
いったい誰が思えるのだろうか!

25.
怱卒の間、馬に乗り、
軍馬、呼び集められた騎兵隊、ガタガタと音を立てて来る馬車が、
ものすごい速さで前へ前へと膨れ上がる。
そして迅速に戦闘の隊列を組み上げる――
遠くには雷のような轟音が矢継ぎ早に鳴り響く。
そして近く、けたたましい太鼓の音が
<夜明けの明星>の昇るまえに、戦士たちを呼び覚ます。
恐怖に慄く市民が群衆となり、
色あせた唇で囁いている――「敵だ! 来る! 来るッ!」

26.
烈しく高く鳴り響くのはスコットランドの「キャメロン族」の笛の音、
族長ロキールの戦闘の合図。スコットランドの北の山々が
幾度も耳にしたあの笛の音。それを敵のイングランド人も聞いたのだ。――
真夜中に、どれほど荒涼と、高く、
勇壮な調べが鳴り響くことか! だが吐息で
山のバグパイプの管が満たされるのと同じように、
千年もの激しい記憶を貫く、獰猛な山の民の豪胆さで、
その心も満たされる。そして勇者エヴァンと猛者ドナルドの名誉が
その一族の耳の奥に響き渡る。

27.
それから、男たちの通るとき、その頭のうえで、<自然>の涙に濡れた青葉を
アルデンヌの森が手を振るように揺すっている――
二度とかえらぬ勇者たちを悲しんで、とはいっても、
もし感覚のないものが悲しむことがあったらのこと。
――ああ! 男たちの足もとで踏みしだかれる草のように
暮れがたまでには踏みしだかれることだろう。
けれども、この生きる<武勇>の炎の軍団が敵軍に突進し、
気高い<希望>に燃え尽き、冷たく地面に朽ちてゆくとき、
次の緑の季節には草が屍のうえへと伸びてゆくのだろう。

28.
昨日の昼、彼らは元気いっぱいだった。
昨日の夕、立派に陽気に美女たちに囲まれていた。
真夜中、戦闘の合図があった。
朝、武装して位置についた。――そして昼、
戦いの壮大な厳格さで隊列を組んだ!
雷雲がそのうえに差しかかり、稲妻が走ると、
泥となった土が肉体のうえに覆いかぶさり、
そのうえにまた泥がかぶさり、累々と堆積し、
騎手も馬も、敵も味方も、ひとつの真っ赤なごた混ぜの墳墓となる!


ワーテルローの戦いのなかでも、バイロンが特に着目したカトル・ブラの戦い。
バイロンは戦争の描写になるとめっさ巧いですねぇ!(ぇ)

27連は、訳しているとき「ドキっ」ときました。
構図、ことばの使い方などなど。
上下方向の移動が! *・▽・*イイ☆



XXI.

There was a sound of revelry by night,
And Belgium’s Capital had gathered then
Her Beauty and her Chivalry, and bright
The lamps shone o’er fair women and brave men;
A thousand hearts beat happily; and when
Music arose with its voluptuous swell,
Soft eyes looked love to eyes which spake again,
And all went merry as a marriage bell;
But hush! hark! a deep sound strikes like a rising knell!

revelry:お祭り騷ぎ;ばか騷ぎの酒宴.
voluptuous:((文))感覚に快い, なまめかしい, 色っぽい
look:…を見る, 直視する, に目をやる
Soft:〈言葉・視線・笑みなどが〉あまったるい, こびるような
knell:((文))弔鐘(death knell);うら悲しい音

XXII.

Did ye not hear it? ―No― ’twas but the Wind,
Or the car rattling o’er the stony street;
On with the dance! let joy be unconfined;
No sleep till morn, when Youth and Pleasure meet
To chase the glowing Hours with flying feet―
But hark! - that heavy sound breaks in once more,
As if the clouds its echo would repeat;
And nearer―clearer― deadlier than before!
Arm! Arm! it is - it is - the cannon’s opening roar!

XXIII.

Within a windowed niche of that high hall
Sate Brunswick’s fated chieftain; he did hear
That sound, the first amidst the festival,
And caught its tone with Death’s prophetic ear;
And when they smiled because he deemed it near,
His heart more truly knew that peal too well
Which stretched his father on a bloody bier,
And roused the vengeance blood alone could quell:
He rushed into the field, and, foremost fighting, fell.

window:(他)…に窓[開口部]を取りつける
niche:壁がん:像・花瓶などを置くための壁などのくぼみ
chieftain:((古・詩))指揮官, 隊長
peal:(大砲・雷・かっさい・笑い声などの)大きな響き, とどろき
bier:棺架, 棺台;墓

XXIV.

Ah! then and there was hurrying to and fro―
And gathering tears, and tremblings of distress,
And cheeks all pale, which but an hour ago
Blushed at the praise of their own loveliness―
And there were sudden partings, such as press
The life from out young hearts, and choking sighs
Which ne’er might be repeated; who would guess
If ever more should meet those mutual eyes,
Since upon night so sweet such awful morn could rise!

distress:苦悩, 悲嘆, 心痛;((形式))(肉体的)激痛, 苦痛;疲労(困ぱい)

XXV.

And there was mounting in hot haste―the steed,
The mustering squadron, and the clattering car,
Went pouring forward with impetuous speed,
And swiftly forming in the ranks of war―
And the deep thunder peal on peal afar;
And near, the beat of the alarming drum
Roused up the soldier ere the Morning Star;
While thronged the citizens with terror dumb,
Or whispering, with white lips – “The foe! They come! they come!”

mount:(馬・自転車などに)乗る((on ...)).
muster:〈軍隊・乗組員などを〉(戦闘・点呼などのために)集合させる, 呼び集める
squadron:《海軍》小艦隊, 戦隊;《陸軍》騎兵大隊
impetuous:衝動的な, 性急な, 軽はずみな;熱烈な
ranks:軍隊の構成員, 将卒;((集合的))下士官, 兵卒

XXVI.

And wild and high the “Cameron’s gathering” rose,
The war-note of Lochiel, which Albyn’s hills
Have heard, and heard, too, have her Saxon foes:―
How in the noon of night that pibroch thrills,
Savage and shrill! But with the breath which fills
Their mountain-pipe, so fill the mountaineers
With the fierce native daring which instils
The stirring memory of a thousand years,
And Evan’s―Donald’s fame rings in each clansman’s ears.

pibroch:ピブロック:バグパイプで演奏する勇荘な曲
thrill:〈メロディーなどを〉震えさせて発する[出す]
shrill:〈声・音が〉高くて鋭い, 甲高い
daring:(冒険的な)勇気, 大胆不敵, 豪胆
instil:主義・感情などを〉徐々にしみ込ませる, (…に)注ぎ[教え]込む((in, into ...))

XXVII.

And Ardennes waves above them her green leaves,
Dewy with Nature’s tear-drops, as they pass―
Grieving, if aught inanimate e’er grieves,
Over the unreturniug brave, - alas!
Ere evening to be trodden like the grass
Which now beneath them, but above shall grow
In its next verdure, when this fiery mass
Of living Valour, rolling on the foe,
And burning with high Hope, shall moulder cold and low.

Ardennes:アルデンヌ。フランス北部からベルギー及びルクセンブルグにまたがる森林丘陵地帯、2度の大戦の激戦地。
inanimate:無感覚の
verdure:緑, (特に草木の)新緑;緑の草木;(特に)緑草
Valour:((文))(特に戦闘における)武勇, 剛勇, 勇猛, 勇気, 勇敢さ, 雄々しさ
moulder:(徐々に)朽ちる, くずれる, 崩壊する((away, down))

XXVIII.

Last noon beheld them full of lusty life;―
Last eve in Beauty’s circle proudly gay;
The Midnight brought the signal-sound of strife,
The Morn the marshalling in arms, - the Day
Battle’s magnificently-stern array!
The thunder-clouds close o’er it, which when rent
The earth is covered thick with other clay,
Which her own clay shall cover, heaped and pent,
Rider and horse, - friend, - foe, - in one red burial blent!

lusty:元気あふれる, 元気いっぱいの, たくましい, 強壮な(powerful)
stern:厳格な, きびしい、重苦しい, 過酷な
rent:(衣服などの)ほころび, かぎ裂き, (地面などの)割れ目, 裂け目
pent:penの過去分詞。(他)〈家畜を〉囲い[おり]に入れる;〈人を〉閉じ込める, 監禁する((in, up/in ...)).
burial:埋葬(式);埋葬地, 墓所
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