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しあわせの王子(3)

2011年11月03日 20:04

【しあわせの王子】 (部分)
   オスカー・ワイルド 作
   Shallot B.訳

 「黄金の寝室だ」と、つばめは辺りを見回しながらそっと独り言を言い、眠りにつく準備をしました。しかし、ちょうど眠ろうと頭を翼の下へうずめているとき、大きな雫が落ちてきました。「ふしぎなこともあるもんだ! 空には雲のひとかけらもなくて、お星様が綺麗に輝いているというのに、雨が降ってくるなんて。北欧の気候は本当にひどいな。葦は雨が好きだったけど、あれはただの彼女のわがままってものだった。」
 そして、またひとつ、雫が落ちてきました。
 「露払いもできないなんて、役に立たない彫像だな。いい煙突管を探さなくちゃいけないな。」とつばめは言い、飛び去ることにしました。
 しかし、彼が羽を広げるまえに、みっつめの雫が落ちてきましたので、見上げてみますと、――ああ! つばめは何を見たのでしょうか。
 しあわせの王子の目には涙が溢れ、黄金の頬をつたって落ちていました。王子の顔は、月明かりを浴びてあまりに美しかったので、小さなつばめは胸がいっぱいになりました。
 「あなたは何者ですか?」とつばめが言いました。
 「僕はしあわせの王子といいます。」
 「では、なぜ泣いているのですか? おかげで、かなりびしょびしょですよ。」
 彫像は答えました。「僕が生きて人間の心臓を持っていたころ、僕は涙なんて知りもしなかった。だって僕は<悲しみのない宮殿>に住んでいて、悲しみはそこへ入ってこれなかったのだからね。昼のうちは庭で仲間と遊び、晩には大広間で踊りの明け暮れた。庭の周りは高い塀で囲ってあって、そのむこうになにがあるかなんて気にもしなかった。僕の周りの何もかもがとても美しかったのさ。仲間は僕をしあわせの王子と呼び、実際僕もしあわせだった。快楽がしあわせだというのなら、ね。そんなふうに僕は生き、そして死んだ。そして今や僕は死んで、人々が僕をこんな高いところへと持ち上げたので、自分の街の醜さと不幸のすべてが見えてしまう。僕の心臓は鉛でできているというのに、泣かずにはいられないんだ。」



『しあわせの王子』(1)
『しあわせの王子』(2)


今回の一連の『しあわせの王子』の訳はここまで。
たったこれだけでも、ワイルドの「美」に対する意識とか「貴」の意識とかが窺い知れるように思います。

最初の市議は要するに「役に立たない」わけですよね。市議なのに、実利に疎いのだから…。
この冒頭の場面に出てくる登場人物たちは、みんな「喜びのない」人々。
そして、つばめもまた喜びを失って登場します。

楽しみや喜びを失くした人々がしあわせを感じる瞬間は王子を目にしたとき、あるいは王子のなにか一部を手に入れたとき。
それゆえにしあわせの王子はそう呼ばれているのかもしれません。

久しぶりに井村君江の訳で読み、涙が出ました。
つばめが王子の傍にいて、南のエジプトへ飛んでいくのを諦めたとき、つばめの痛々しさと愛情の深さに胸が打たれます。

王子のこの言葉は、胸をえぐるようです。

ね、小さいツバメさん。[中略]きみはいろいろなふしぎな話をしてくれたけど、なにがふしぎといって、人間の苦しみにまさるものはないんだよ。不幸よりも神秘的なものが、この世にあるだろうか。[…]」(下記書籍、26頁)

幸福の王子―オスカー・ワイルド童話集幸福の王子―オスカー・ワイルド童話集
(1989/03)
井村 君江、オスカー ワイルド 他

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