枝垂れ桜の枝にかけようとして

2012年04月14日 22:45

枝垂れの桜2012

おこま婆 (頷いて)川上の幾世の渡しに枝垂れ桜が一本あるだろ? お冬は、そのへんに生えている仏座や菘であんだ草紐を、あの枝垂れ桜の枝にかけようとしてよじ登ったらしいのさ。そしたら、つれない枝だよ、ぽきんと折れて、あの娘は草紐を手にからませたまま新川の流れにまっさかさま。着物の裾が大きくひろがって、白い躰が緑色の水に浮いては沈み、こんなことをいっちゃなんだけどとてもきれいだったそうだよ。そしてしばらくのあいだお冬は流れに押し流されながら歌を口遊んでいたらしいよ。/[…]自分が死ぬのを知らぬ気に、とても明るい声だったってさ。/[…]だがそれもわずかなあいだ。やがて急に水をたらふく飲み込み、ぶくぶくっと沈んだかと思うとそのまま川底へ……

井上ひさし「天保十二年のシェイクスピア」(『井上ひさし全芝居 そのニ』(株)新潮社、1984年、89-90頁所収)。


ほとけのざ2012
ホトケノザ↑。
これは、井上ひさし『天保十二年のシェイクスピア』に出てきて、劇中『ハムレット』の筋書きのオフィーリアの役割を担う女の子、お冬が死ぬ場面を語るおばあさんの台詞です。
『ハムレット』では王妃ガートルード台詞でオフィーリアが亡くなりますよね。

Queen. There is a willow grows askant a brook
That shows his hoary leaves in the glassy stream.
Therewith fantastic garlands did she make
Of crow-flowers, nettles, daisies, and long purples,
That liberal shepherds give a grosser name,
But our cold maids do dead men's fingers call them.
There on the pendent boughs her coronet weeds
Clamb’ring to hang, an envious sliver broke,
When down her weedy trophies and herself
Fell in the weeping brook. Her clothes spread wide,
And mermaid-like awhile they bore her up,
Which time she chanted snatches of old lauds,
As one incapable of her own distress,
Or like a creature native and indued
Unto that element. But long it could not be
Till that her garments, heavy with their drink,
Pull’d the poor wretch from her melodious lay
To muddy death.
(4.7.165-182.)
(王妃 柳の木が小川の上に斜めに身を乗り出し/鏡のような流れに銀の葉裏を映しているあたり。/あの娘は、その小枝で奇妙な冠を作っていました。/キンポウゲ、イラクサ、ヒナギク、シランなどを編み込んで。/あの花を、はしたない羊飼いたちは淫らな名で呼び/清らかな乙女たちは「死人の指」と名付けている。/それからあの娘は柳によじ昇り、しだれた枝に花冠を掛けようとした途端/意地の悪い枝が折れて/花冠もあの娘も/すすり泣く流れに落ちてしまった。裳裾が大きく広がって/しばらくは人魚のようにたゆたいながら/きれぎれに古い賛美歌を歌っていました。/身の危険など感じてもいないのか/水に生まれ水に棲む生き物のよう。/でもそれも束の間、/水を含んで重くなった衣が/可愛そうに、あの娘を川底に引きずり込み/水面に浮かんでいた歌も泥にまみれて死にました。(松岡和子訳『ハムレット』筑摩書房、223-224頁)

井上の巧みさがわかりますよね。
枝垂れ桜は、霊木の一種だそうですが、ともあれオフィーリアは柳に、お冬は枝垂桜に、それぞれ己の命を委ねるあたりは、イギリスと倭の、それぞれの文化背景が垣間見れて面白いところです~。

で、こっちは別の枝垂桜。↓
地元の霊木らしいですよ!^U^
花のたましいは…
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